美少女ゲームの物語構造について


今回は、美少女ゲーム*1の物語構造を各ヒロインごとに用意されているシナリオの関係性に注目して二種類に大別してみようと思う。一つは各ヒロインごとのシナリオが物語世界に対して等価である水平型(図1)、もう一つはシナリオ間に上下構造が存在する垂直型(図2)だ。

1.水平型


図1 水平型
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各ヒロインごとのシナリオが物語世界に対して等価に独立していることが特徴であり、美少女ゲームの多くはこちらの水平型に含まれる。各ヒロインとの恋愛を楽しむことを主題とする美少女ゲームにおいては、各ヒロインの魅力を引き出す=個別シナリオを膨らませる先の結果として水平型に落ち着くことは自然であると言えよう。水平型の美少女ゲームの代表作としては『Kanon』『みずいろ』『君が望む永遠』『月姫』『To Heart2』などが挙げられる。


水平型の美少女ゲームの世界観は共通ルートにより定義される。共通ルートをプレイするうちにプレイヤーは主人公とヒロインの関係、各ヒロイン間の関係、ヒロインの趣味嗜好などを自然と知ることができるだろう。ここで得た知識をもとにプレイヤーが好みのヒロインを選択した先の個別ルートでは攻略中のヒロインに視点が固定され、その他のヒロインは脇役という役割が割り当てられることが普通だ。しかし、脇役という制限のうえでどれだけヒロインの魅力を発揮させることができるか、それもシナリオライターの腕の見せ所だろう(真琴ルートにおける名雪、雪希ルートにおける日和、水月ルートにおける遙)。


前段で説明したように、主人公とヒロインの関係、各ヒロイン間の関係は共通ルートによって定義される。ここで一つ問題があり、ヒロインが孤独を望んでいる場合などヒロイン間に関係がない場合には、主人公とヒロインの二人しか物語に登場することができず、展開に厚みを加えることが難しくなってしまう。このような場合には、サブヒロインを用意すればいい。


サブヒロインは他ヒロインと関係が途絶しているヒロインに対して、ヒロインの代替物として、あるいは個別ルートの補完物として振る舞う攻略不可能の亜ヒロインである。他ヒロインのシナリオには登場しない(できない)。ある種の隠しキャラと言うこともできよう。物語全体を統括するためにもサブヒロインを用意する場合もあるが、ここでは説明を割愛する。

2.垂直型


図2 垂直型
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謎の提示・謎の解決という上下構造が存在しているため、ヒロインの攻略順序が定められていることが特徴である。悪く言えば個別シナリオをばらばらに繋ぎ合わせても成立する水平型と違い、始めに世界観を確立した上でヒロインの世界における立ち位置を決定し、伏線も織り交ぜるなど立体的に物語を構成するする必要があり、シナリオライターの腕が要求される。そのためか、垂直型の作品は多くはない。代表的な作品としては『EVER17』『BALDR FORCE EXE』『Fate / stay night』『ひぐらしのなく頃に』などの作品が挙げられる。


垂直型では主人公の世界観があるシナリオ(解決編のシナリオ)で「転」じることになる。水平型の作品の場合は規定となる世界観が一律のためプレイ時間に比例してプレイヤーは倦怠感を覚えることになるが、垂直型の作品の場合は世界観が「転」じた時点でまったく違う世界が開かれ、新しい気持ちでプレイを再開することができる。


物語途中で心機一転できるためシナリオライターの腕が無限大であれば水平型の作品よりも垂直型の作品の方がヒロインを多く出すことが出来そうに思えるが、「転」じる前の世界観は偽の世界観であるためヒロインの数が多いと「何人も攻略してきたあの世界はみんな嘘っぱちだったのかよ」とプレイヤーの反感を買うことも考えられる。実績からすると、「転」じる前後のヒロインの数は多くとも二人ないしは三人が適当のようだ。

まとめ


以上、水平型と垂直型の作品について説明した。最後に、個別の作品について注釈を加えたい。AirCLANNADはメインヒロインのみ垂直型の作品にも見えるが、世界観が「転」じるほどの変化はないため、メインヒロインの真シナリオは通常シナリオとは別の等価作品と見た方がよいと思う。マブラヴはEXTRA・UNLIMITEDそれぞれの作品内部においては水平型であるが、ALTERNATIVEまで含めた作品全体としては垂直型である。


*1 このエントリにおける美少女ゲームの定義はおおむね恋愛ADVゲーム(一般+成年)のことを指し、陵辱ものは含まれない。