東浩紀(以下、東)はもっぱらメタ物語志向>物語志向的な面ばかりに目を向けているが、これらにも物語志向>メタ物語志向の構造が取り入れられていることを指摘したい。
そもそも、何故「シナリオ分岐型アドベンチャーゲームの形式を採用しつつ、同時に恋愛の物語的な完成度を目指す」必要があるのか。それは、キャラクターAとの恋愛を楽しんだすぐ後にキャラクターBとの恋愛を楽しむという浮気的な行為に対する罪悪感を隠蔽するためだ。東が挙げる作品では一つのシナリオが終了するごとにキャラクター配置と記憶をリセットするというゲーム的(=メタ物語)な手法が用いられている。それに対して物語志向の作品ではシナリオごとに主人公を変更させるという手法で罪悪感を隠蔽し、大きな物語のもとで個々の物語を展開するという物語形式を取ることになる。
メタ物語志向に物語志向を導入するには、大きな物語にメタ物語を位置づけ、プレイヤーキャラクター間の視点移動を主人公の変更に結びつければよい。『Ever17』では青年or少年から第三視点へ、『ひぐらしのなく頃に』では前原圭一から古手梨花with羽入へ主人公を変更している背景にはこうした必然性が存在している。