放送通信審議委員会のレジンコミックスに対する大人の漫画コンテンツ審議は判例における「わいせつ」の基準に従わなければならない

(訳注。レジンコミックスは3/24に1度ブロッキングされています。詳しくは弊ブログの過去記事を参照ください)

放送通信審議委員会(以下、放送通信審議委)は、2015/4/9(2015年第27回通信審議小委員会)レジンコミックス内の個々の漫画コンテンツを審議した。一度レジンコミックス側の意見陳述を聞いた後に最終的な議決をすることとしたが、上記の会議で委員の多くは削除すべきとの意見を明らかにしている。漫画の具体的な内容を見れば分かるが、今まで放送通信審議委が単に性器の露出や性行為描写があればすべて「不法わいせつ物」として処理してきた慣行に照らしてみると、今回の件もこのような基準に基づいて「ポルノ」として処理される可能性が高い。しかし、これは判例上の「ポルノ」の基準に適合しない恣意的な解釈である。

性行為自体は合法的でも、性行為を「見せること」を違法とするポルノ規制は、表現の自由に対する規制の非常に例外的な一部分である。したがって、単に性行為を赤裸々に描写していることを超えて、大人たちが見てはいけないし、性行為を「見せること」が害悪であると明らかなものだけを違法ポルノとして規制することができる。最高裁は、このようなポルノ規制の特殊性を考慮して、禁止されるべき「わいせつ」の概念を限定的に定義した。これによると、不法ポルノとは?一般的な普通人の性欲を刺激して性的興奮を誘発し、通常の性的羞恥心を刺激して性的通念に反するもの?人間の尊厳から人間性を剥奪する露骨で露出した性表現を含んでいる?ひたすら性的興味のみ訴えるだけで、なんらかの文学、芸術、思想的、科学的価値を持たないものとして、この3つの要件をすべて満たしているのであれば不法ポルノとして禁止することができる(最高裁判所2008/3/13宣告)。

審議対象コンテンツは、日本の有名な成人漫画家、八月薫(訳注。うぐいすリボン荻野幸太郎氏が指摘するように東京都青少年健全育成審議会の第649回で同作者の作品が不健全図書指定されています。)の「H体験談」シリーズである。漫画はその性質上ストーリーがあり、これを図で表現する過程で美術的創作性と労働力が加味されるコンテンツとして一定の芸術的価値を持つ。これらの漫画の内容は、主に性行為を描写しているという理由だけで「なんらかの芸術的価値がない」と判断するのは無理な解釈である。

漫画内に継母との情事や婦人科で他の人との情事を観察する内容など反社会的なストーリーを含んでいるということも指摘されたが、これらの内容は有名な映画のモチーフによく使われる素材でもある。一定の芸術的価値がある限り、犯罪として規定されていてもいないそのような行為の描写があるという理由だけで一義的に不法わいせつ物として定義されることはできない。

また、委員会側は「コンテンツは性器をモザイク処理しているが、輪郭などに照らして性器であることを識別することができる」ということも指摘したが、これはこれまで「性器露出」するかどうかを基準にポルノを決定してきた放送通信審議委の基準にも満たないものであり、無理に審議根拠を拡張しているものとみられる。

このように放送通信審議委が情報の「不法性」を判断する上で、上記判例のような厳格な法的要件を熟考することなく、定かではない基準で恣意的判断を行なっているのは、放送通信審議委がこれまで「違法情報」だけを審議したものではなく「健全な通信倫理の涵養」という抽象的な基準に審議を行ってきたからである。しかし、これは「情報通信網法条項によって禁止されるか、または規制されている情報と同様の情報」つまり違法情報だけが削除やブロックの対象と判示した憲法裁判所の決定(憲法裁判所2012/2/23)にも反するものであり、明白な「不法」のコンテンツに対してのみ制限を要求することができると宣言した情報流通者の責任に関する国際原則である「マニラ原則(Manila Principles on Intermediary Liability)」にも反するものである。

行政機関である放送通信審議委が「わいせつ」概念を恣意的に広く解釈することにより「わいせつ」と判断することができない情報までも規制されており、このため、成人の知る権利は全く保護されていない。当面は一つの漫画コンテンツがそのまな板の上に上がっただけであるが、今後は他の漫画、さらに他の文化コンテンツがこれらの抽象的な基準を持つ放送通信審議委に切っ先を向けられるとも限らない。放送通信審議委は、今からでも厳しい法的基準に基づいてわいせつおよび違法情報を審議しなければならず、根本的には放送通信審議委の通信審議制度自体が改編されるべきである。

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追記。4/28にレジンコミックスの意見陳述および放送審議委の審議結果が出される予定である。