単純所持の保護法益について
日本においても性的目的所持の禁止が入った今、改めて単純所持を禁止する保護法益について考えてみましょう。
各国の保護法益
まず各国の保護法益を列挙します。
アメリカ
Osborne裁判(1)児童ポルノ市場の撲滅 (2)児童の人間としての尊厳への侵害防止(3)児童の誘因防止
Child Pornography Prevention Act of 1996の合憲説*1(1)児童の誘因防止(2)模倣の抑止*2(3)立証が難しくなる
カナダ
R.v. Sharpe 模倣の抑止
ドイツ
(1)児童ポルノ市場の撲滅(2)模倣の抑止(3)児童の人間としての尊厳への侵害防止
スイス
(1)児童ポルノ市場の撲滅(2)模倣の抑止
まとめ
以上より、(1)児童ポルノ市場の撲滅(2)模倣の抑止(3)児童の人間としての尊厳への侵害防止(4)児童の誘因を阻止する の4つが一般的な単純所持の保護法益です。このうち(1)については、ドイツでは単純所持は児童ポルノ市場に対する積極的な働きかけが存在しないと批判されています。(2)についても、ドイツでは模倣の危険性が実証されていないとの批判がされており、たとえば最近行われた研究においては児童ポルノの消費と現実の児童に対する性的虐待との間には関連性がまったくないとの結論に至っています。(4)についてはChild Pornography Prevention Act of 1996の違憲説において児童を誘引するには必ずしも児童ポルノを使う必要はなく、飴か何かでも用を達するのではないかと批判されています。よって、現状保護法益として批判に耐えうるものは(3)児童の人間としての尊厳への侵害防止 のみであると言えるでしょう。
ただし、これら4つ全てが普遍的な児童ポルノ禁止の理由であると踏まえておく必要があります。保護法益に関する考え方として、カナダは特に異端というわけではありません。