1996年第1回児童の商業的性的搾取に反対する世界会議(ストックホルム会議)のECPAT資料を検証する(1)

この項は児童ポルノ禁止法が制定された背景。なぜ漫画が児童ポルノとして標的にされたのか?の続きです。

第145回国会法務委員会議事録第12号で民主党の福岡宗也委員が次のように述べています。「一九九六年にストックホルムにおいて開催をされました国際会議において、我が国が児童ポルノ製造販売の輸出国であるとして、また子供買春ツアーをアジアに多数送り出している加害国として指摘をされました」

この会議では日本側参加者から資料として写真誌「アリスクラブ」(コアマガジン)が提出された、米国の法律家が「こんなものは子どもポルノそのものだ」と言ったという説がありますが定かではありません。

ストックホルム会議のウェブページはまだ残っていますが。残念ながら議事録などはなく、基調ペーパーと結論が残されているだけです。しかし、基調ペーパーから議論の筋道を予想することができるのではないか。幸い、アジア女性基金が作成した日本語訳があり、日本を児童ポルノ製造販売の輸出国とする資料をすぐに見つけることが出来ました。

The worldwide flow of pornography is difficult to describe with any precision but a brief examination of some of the major international production centres offers a sense of the global supply and demand. In Asia, Japan is the most important centre for the commercial production of child pornography, producing a significant and increasing amount of "teen pornography" that depicts young Japanese girls in sexually explicit poses in teen magazines.[12] Japan also produces millions of erotic comics that are targeted at young students and readily available in vending machines in most Japanese cities. Japanese child pornography reflects a special appeal for sex with Japanese girls who are often depicted in school uniforms. Pornography involving pre-pubescent children is also available commercially in Tokyo.


世界でのポルノの流れを正確に言うのは難しいが、主な国際的製造の中心とされているところを調査することで、世界のだいたいの需要と供給の動きが分かってくる。アジアでは日本が子どもポルノの商業用製造の最も重要なセンターとなっており、ティーン雑誌(註12)に日本の若い女の子が性的にあらわなポーズで写っている「ティーンズポルノ」が数多くつくられ、さらに増加している。また日本では中高生の読者をねらったエロチック漫画が何百万も生産されており、日本全国どこに行っても自動販売機で容易に手に入れることができる。日本の子どもポルノでは、制服を着ている少女との性的行為を連想させるものが目に付く。東京では思春期前の子どもポルノが商業用に出回っている。

Japanese child pornography is distributed in Asia and worldwide. U.S. law enforcement officials in California report seizing material depicting the exposed genitals of pre-pubescent Japanese children. Canadian Customs reports that pornographic materials involving Japanese children are found in the possession of crew members of Japanese cruise ships. Japanese child pornography is also circulating on the Internet.The Yakuza, Japanese organised crime, previously controlled the sex industry in Japan. Some
commentators report that tough Japanese anti-mob laws, however, have loosened the Yakuza’s grip in recent years.[13]


日本の子どもポルノはアジア及び世界中で販売されている。アメリカの警察当局はカリフォルニアで日本の思春期前の子どもたちのあらわな性器が写っている写真を押収したと発表しており、またカナダの税関でも日本の子どもたちも写っているポルノを日本の巡航船の乗組員が持っているのを発見したと報告している。日本の子どもポルノはインターネットでも出回っている。以前は日本の犯罪組織のヤクザが日本でこのセックス産業を取りしきっていた。だが近年は、かなり厳しい暴力団取締法ができたため、ヤクザの支配力は弱まったとする評論家もいる。(註13)。


12 Peter Constantine, Japan’s Sex Trade: A Journey Through Japan’s Erotic Subcultures 184-88
(1993).
13 Ibid, pp. 13-14.

英語版リンク アジア女性基金による和訳版へのリンク(註の番号は英語版に合わせて変更し、突っ込みを入れる文章に英字を追記しています) どちらもpdf注意


誰がECPATに日本のことについて教えたのかは知りませんが、もうちょっと下調べをして頂きたいところです。まるで中高生向けのエロ漫画が自販機で売られているかのような書き方ですが、中高生の読者を狙った漫画=ヤング系雑誌は自販機で販売されません。自販機で売るのは明らかに成年向け雑誌、しかも実写ものが主です。制服というモチーフが多いのは、日本の中高生の多くが制服を着ているのでなんとも。思春期前の子どもポルノ、という記述については当時の雑誌を持ち合わせていないため保留します。アメリカとカナダの話についてはソースがありませんが、性器が写っている写真であれば刑法にひっかかりますし、後者については複数の目撃証言が欲しいところです。そして、ここが大事なところですが、日本では暴力団児童虐待製造物を取りしきっていたという話はありませんね? 日本では非合法組織が資金を稼ぐために児童虐待製造物を製造していたという話になっていないか心配です。

次に、註から幾つかの記述について「 Peter Constantine, Japan’s Sex Trade: A Journey Through Japan’s Erotic Subcultures」を引用していることが分かります。Peter Constantineって誰だ。Wikipediaによるとドイツ語、ロシア後、フランス語、ギリシャ語、イタリア語、アラビア語オランダ語スロバキア語の翻訳家のようです。アテネで育ち1983年にアメリカへ移住、日本のスラングに関する本を最初に出し――

今の略歴のどこから日本が出てくるんだよ!

amazon.comを見るとペーパーバック版しかないようです。タイトルといい、出版形式といい、学者の書いた研究所とは思えません。スラング研究家の書いた一般書籍を平然と引用するECPATに恐懼の念を抱きつつ、次回へ続きます。