1996年第1回児童の商業的性的搾取に反対する世界会議(ストックホルム会議)のECPAT資料を検証する(2)

ここからは元ネタ(Japan's Sex Trade)とECPATの基調ペーパーを突き合わせて検証します。
まずは註13、ヤクザが児童ポルノ産業を仕切っているという説について、元ネタから引用します。

The biggest change on Japan's sex-trade scene was the withdrawl of the Yakuza, the Japanese mob. For years they had openly ruled every aspect of the redlight trade, from delivering napkins, towels, and tooth-picks to massage parlors, to deciding which women worked in what brothels and on what days. The Yakuza had imported the Jappayuki (Japan-bound) prostitutes from Philippines, and later brought in batches of fresher women from thailand.(中略)But sharp new anti-mob laws loosened the Yakuza's grip on Japan's modern pleasure quarters, and the tough men with their full-body tattoos have, for the time being, disappeared from the street corners, the slummy dark entrances of the sex-parlors, salons, and the clubs.


日本の風俗で最大の変化は、日本における暴徒、ヤクザの没落である。ヤクザはマッサージパーラーにナプキンや、タオルや、歯ブラシを提供することで、女性がどこの売春宿で何日働くかの決定権を握り、長年にわたり公然と風俗街を全ての面において支配してきた。ヤクザはジャパゆきさんと呼ばれる売春婦をフィリピンから輸入し、のちにはタイから若い女性を何度も移送した。(中略)けれども、新しい暴対法が日本の近代四半世紀の娯楽へのヤクザの支配力を弱めさせた。全身入れ墨の厳つい男どもは街頭やスラムにあるセックスパーラーやサロン、クラブの入り口から姿を消した。

ヤクザが3次元(笑)の風俗産業を支配をしている記述はありますが、どこを見ても児童虐待製造物とは関係ありませんね。なお、索引からYakuzaが登場するページをすべて確認しましたが、印刷物については1945年〜1950年のカストリ紙時代に紙の闇市場(当時、配給制だった紙は貴重品だった)を支配していたことが語られるのみで、ヤクザが印刷物やビデオを含む性産業を支配していたという記述は"Japan's Sex Trade"にはありません。よって、この箇所はECPATが独自の見解で記載したことが分かります。

ヤクザが性産業を支配している、暴対法でヤクザの影響力が衰えた。これだけならば概ね正しい記述です。しかし、児童虐待製造物の産業の話を滑り込ませ、かつ、"the sex industry"と冠詞一つを入れることによって全く嘘の記述となります。日本の実態を知らなければ騙されても仕方ない、実に巧妙な手口です。

もっとも、単純に日本の性産業を支配しているのがヤクザなら、児童虐待製造物についてもそうに違いない、と中身をよく見ずに書いた可能性もあります。それはそれで、大学生の卒論じゃなし、そんな程度で国際会議に出すレポート書くか?とECPATの”権威”を揺るがす問題に発展しますね。