雑誌カバーに関する考察

厳格審査基準を適用すべき

青少年健全育成条例(以下、条例)は未成年の知る権利(=精神的権利)を犯しているため、厳格審査基準を適用すべきであるとする考え方である。この場合、「過度に広範な規制の禁止」「明白かつ現在の危険」「目的を達成する上でより制限的でない手段が存在しない」が適用される。後者2つについては危険性が明白であるとはいえない、青少年の健全育成を達成するためには性教育を行えばよいなどの反論が考えられる。

この考え方に立つ場合、条例そのものが違憲であり、条例の規則を前提とする雑誌カバーも認められない。

緩やかな審査基準を適用すべき

営利的言論であり青少年の健全な育成に有害であることはが社会共通の認識になっているから、条例は「目的を達成する上で合理的である」ため合憲であるとするのが岐阜県青少年保護育成条例における最高裁判決主文である。また、伊藤裁判官補足意見によれば、青少年の知る権利を認めながらも青少年は判断能力を十全に満たしていないため成人と同等の知る権利を保証される前提を欠き、厳格審査基準より緩やかな基準で適用されるべきであるとしている。*1それでは、緩やかな審査基準を適用した場合、雑誌向けカバーは合憲だろうか。条例は成人の権利を侵さないことを暗黙の前提としているため、まずはこの点について考察しよう。

表紙は成人が雑誌を購入するか否かを決める際に参考とする営利的言論と解することができる。旧来の枠組みで言えば、営利的言論は政治的言論とは異なり経済的自由を求めるものであるため、緩やかな審査基準が適用される。条例が合憲であるもとでは雑誌カバーも「目的を達成する上で合理的である」と理解さえうるであろう。新しい枠組み、セントラルハドソンテストでは「政府の主張する利益が実質的か」「政府による規制がその利益を直接的に推進するものか」「政府による規制がその利益達成のために必要である以上に広汎ではないか」を審査する。雑誌カバーは青少年の健全育成を間接的に推進するものであり、対象は少なくとも現状の「有害」図書と同程度に収められるべきであろう。特に2番目の理由により、セントラルハドソンテストには通らないだろう。しかし、ここで問題を更に複雑にする要素がある。雑誌カバーを容易に外すことができる場合、それでも成人の知る権利を侵していると言えるのだろうか。*2むしろ出版社の経済的自由を脅かしていると言うべきではないだろうか。

ここで私は雑誌カバーを合理的に解釈する方法を一つ挙げてみようと思う。それは「雑誌カバーは区分陳列の一種である」という解釈だ。たとえば東京都のガイドブック*3によると区分陳列の例として「間しきり、ついたてなどで陳列場所を隔離し、入り口に青少年制限の掲示をする」というものだ。容易に外すことができる場合に限るが、雑誌カバーはこれと同等の機能を果たすだろう。

次に、未成年を対象として雑誌カバーが「目的を達成する上で合理的である」か否かを検討しよう。条例は青少年の健全育成を促すために「有害」図書を読ませないという手段を用いている。条例によっては成人が未成年に「有害」図書を見せることを手段に反することとして禁止し、罰則規定を設けている。表紙が雑誌を購入するか否かを決める際に参考とするもの、未成年を誘因するものであるとすれば手段に反すると言える。ただ、前者ほど直接的ではなく「有害」とされる箇所を見せているわけでもない雑誌カバーを「目的を達成する上で合理的である」とする根拠は弱いだろう。なにしろ誘因された未成年は既存の条例により「有害」図書を購入できないのであるから。しかし、積極目的規制の下では著しく不合理とまでは判断されないのではないか。

グレーゾーン誌について

ここまで私は「有害」図書を対象とした上での雑誌カバーの合憲性について検討してきたが、昨今、カバーをかけるか否かの対象とされている雑誌はCVSで販売されているグレーゾーン誌であり、表示図書(=条例の規定により常に「有害」図書であるとされる。ただし東京都除く)ではない。とはいえ、包括指定を採用している道府県において――基準が厳しい地域はなおさらに*4――グレーゾーン誌を「有害」図書として扱うことには一定の合理性があると考える。もちろん、条例の枠組みからは「有害」図書ではないものを対象にすることは許されないことは言うまでもない。*5

ところで、グレーゾーン誌は「有害」図書ではないと主張するのであれば、書店がグレーゾーン誌を表示図書と同様に18禁ゾーンに配列することを批判し、また、都条例で指定を受ける頻度が高いレーベルと同様に一般コーナーに配架すべきであると主張すべきではないだろうか。*6また、CVSを含め18歳未満にはお勧めできない、こともない雑誌を「18歳未満の購入はお断りします」扱いにするのは出版社の経済的自由を脅かしてはいないだろうか。*7

総括

本稿では青少年健全育成の観点のみ扱ったが、雑誌カバーを実施すべき理由としてよく「見ない権利」や「親が子供に性教育を行う妨げになる」などの理由が挙げられる。これらの観点については頁が尽きたためここでは取り上げない。*8私個人としては、容易に外すことができるという前提の下、予め条例を改定するという手続きを踏んだ上であれば雑誌カバー違憲ではないと考えていることを申し述べて終わりとさせて頂く。

*1:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/356/050356_hanrei.pdf

*2:仮に成人の知る権利を侵していないのだとすれば、同様に未成年の知る権利もまた侵していないことになるだろう。

*3:http://www.seisyounen-chian.metro.tokyo.jp/about/pdf/poster-leafret/aramasi2016.pdf

*4:例えば、あきそらを「有害」指定する自治体など

*5:堺市CVSとの個別契約であると主張しながら、カバーには「有害」図書であるとの記載があり、矛盾している

*6:「18歳未満の購入はお断りします」の注意書きなしに1階にグレーゾーン誌を置いていた秋葉原の某店は勇者だと思う

*7:尤も、書店やCSVがグレーゾーン誌を18歳未満には売らないという経済的自由もまた認められるだろう

*8:ぶっちゃけ、ここまで書くのに4時間くらいかかっているから疲れた。