“報道型ネットメディアの負の側面” NewSphere問題を受け、個人ブログ報道

一般人への発信を大メディアが独占していた時代は過去となり、インターネットが普及した今では誰もが情報を発信できる時代が来た。ブログやTwitterFacebook、TVや新聞を見ることなしに、私たちには情報がいくらでも入ってくる。けれども、個人が処理するにはあまりにも情報は多すぎた。情報を選別するコストを省くため私たちは、はてなブックマークまとめサイトを使うか、impress watchやengadgetといった専門のニュースサイトを利用する。専門のニュースサイトは大手メディアほどではないにしても専門の「記者」を雇っているから情報の正確性は保たれているはずだ。けれど、その前提が崩れたら、と考えたことはあるだろうか。今回のNewSphereのアマゾンジャパンの記事は専門的な知識を持たない「記者」が書く記事の有用性について考える一助となった。

bloomberg報道

まずはNewSphere記事が引用するbloombergの報道について検討しよう。

翻訳

ブルームバーグ) アマゾンジャパンは児童ポルノの販売幇助に関する警察の捜査に「全面的に協力」すると電子メールによる声明で述べている。

愛知県警はアマゾンジャパンのサイトが未成年の少女の写真集を含むポルノを取引する販売者によって使用されている証拠を求めてアマゾンジャパンの東京本社と千葉県の物流センターを家宅捜索したと、東京新聞は伝えた。

アマゾンジャパンの声明は「違法な商品をアマゾンで販売することを禁じている」としている。

半裸の思春期前の少女の写真集――2013年にバンドやモデル、若手女優らから6.15億ドルを生み出す「アイドル」産業の一部――は2013年10月の時点では日本の三大小売りサイトで入手可能だった。

日本は去年法律を改正して児童ポルノの所持を禁止したが、「ジュニアアイドル」と呼ばれる産業はグレー領域として残った。アマゾンジャパンの捜査は、日本警察が商品を運びつづけた主流の小売業者を取り締まりはじめている可能性を示している。

記事に関する記者への問い合わせは東京の松山かの子kmatsuyama2@bloomberg.netまで。
この記事についてのエディターの問い合わせはスタンリー・ジェームスsjames8@bloomberg.netまで。

Amazon Japan Is Cooperating With Child Porn Investigation

検討

Bloombergの記者はアマゾンを利用して販売された「未成年の少女の写真集」もしくは「半裸の思春期前の少女の写真集」を「ジュニアアイドル」として認識し、警察が「ジュニアアイドル」の取り締まりを始める可能性を示唆しているようだ。しかし、現時点の情報では記者は誤解していると言わざるをえない。なぜなら東京新聞の記事にあるように愛知県警は「県警は昨年九月から今年一月にかけて、アマゾンの通販サイトに児童ポルノの写真集などを出品していたとして」摘発を行っているからだ。もしこれらに「ジュニアアイドル」が含まれるのであればその旨愛知県警が発表して騒ぎになっているに違いない。

そもそも「ジュニアアイドル」をAKBやジャニーズのような「アイドル」産業の一部に含めることが間違いであると考える。三次元なんざ知ったことではないので間違っているかもしれないが、あくまで芸能として作られている「アイドル」と徹底的にポルノとして作られている「ジュニアアイドル」は別物だろう。少なくとも「ジュニアアイドル」を「アイドル」産業に含めることには大きな誇張が見られる。

telegraph報道

次はtelegraph報道について検討する。

翻訳

東京の警察は児童ポルノ販売に関する捜査の一環としてAmazon.comの日本法人の本社および郊外にある物流センターの本社を捜索した。

児童ポルノの所持が最終的に2014年6月に違法とされて以来最も高い注目を浴びている捜査の対象となった米国を拠点とする同社は警察に「全面的に協力する」と述べた。同社は地元メディアに発表した声明の中で述べている。「私たちはこの捜索について深刻に考えており当局に全面的に協力する」「私たちは私たちのサイト上で違法な品物を許可しないし、リストアップされた違法な品物の出展を防ぎ削除するシステムとプロセスを有している」。また「私たちは自社のポリシーと法律を遵守する」とも付け加えた。

伝えられるところによると、Amazonを通じて違法な児童ポルノを販売した10の業者を逮捕したのちにAmazon施設への捜索が行われた。産経新聞はある取扱業者の話としていくつかのサイトで販売を試みたがAmazonのみ販売が可能だったと伝えている。

4.08億ポンドと見積もられている日本のアイドル産業のかなりの割合は未成年の違法画像に費やされている。子どもの権利活動家は7ヶ月前に児童ポルノの所持が禁止されたことを歓迎すると同時に驚くべき抜け道について警告を鳴らした。

「私たちにはあまりにもなすべきことがある」とECPATストップ子ども買春の会(ECPAT/STOP Japan)の共同代表である宮本潤子は言った。「日本のマンガとアニメ産業は素晴らしいが大きな闇をかかえている」「マンガとアニメは既に児童虐待者に悪用され国際社会の問題となっている」

「最近の国連報告書は児童の関与するバーチャル児童ポルノを犯罪化すべきだと述べており、遅かれ早かれそうなると思う」

子どもの人権団体は、児童の性的な描写(しばしば暴力を伴う)を禁止するよう運動してきたが、そのようなマンガやアニメの芸術家や作家や出版社は単なる絵であり「犠牲者」がいないため犯罪ではないと主張している。彼らはまた、自分の仕事を禁止することは憲法で保護されている表現の自由の侵害になると主張している。

宮本氏は児童への身体的虐待を賛美する絵は、マンガによって自身の幻想を強化された小児性愛者の餌食に落ちる児童よりも保護する価値があるとするこのような意見に異議を唱えた。「私たちにとっては単純なことだ」彼女は言った。「虐待者の犠牲となることから児童を守ることはより大事なことだ」

日本の児童ポルノ犯罪はこの十年で5倍に急増し、少なくとも毎年600人の児童がわいせつなビデオや写真を製造するための犠牲となっている。運動家はこれらは氷山の一角に過ぎないと考えている。

Amazon's Japan HQ 'raided' in child porn investigation

検討

どうやらtelegraphは宮本潤子氏の発言をそのまま垂れ流しているだけのようだ。これで「記者」としてやっていけるとはうらやましいことである。明らかな間違いは次の二つ。

4.08億ポンドと見積もられている日本のアイドル産業のかなりの割合は未成年の違法画像に費やされている。

英ポンドが180円、米ドルが120円と換算すれば、日本のアイドル産業として推定されている数字はbloombergと一致している。たとえば10年前の野村総合研究所調査はアイドル産業600億円と見積もっていることから考えれば、明らかに合法な活動がほとんどだ。

ECPATストップ子ども買春の会(ECPAT/STOP Japan)の共同代表である宮本潤子

原文ではECPAT Japanとなっている。日本国内のECPAT団体はECPAT/ストップ子ども買春の会のほかにECPAT関西が存在するため、ECPAT/ストップ子ども買春の会の英文表記はECPAT JapanではではなくECPAT/STOP Japanである。

「児童への身体的虐待を賛美する絵は、マンガによって自身の幻想を強化された小児性愛者の餌食に落ちる児童よりも保護する価値がある」だなんて、宮本潤子氏は表現規制反対派の意見をどこまで歪曲して伝えてくれるのだろう。表現規制反対派はマンガが児童への身体的虐待を「賛美」するものではないと主張しているし、マンガが小児性愛者の幻想を強化することは基本的に否定している。discaたんよりも酷い言いよう(discaたんは「どうせ〜だろ」という枕詞は付ける気がする)、あまりにアンフェアな態度に幻滅する。

ところで、バーチャル児童ポルノを犯罪化すべきとした国連報告書とはどれのことだろう。"involving children"が実在児童の関与を示すという意味であれば、現在の選択議定書の下で違法である。

NewSphere報道

最後にNewSphere報道について検討する。同報道が引用したbloombergとtelegraphはこれまで見てきたとおり、「ジュニアアイドル」が捜査対象になったと勘違いした記事と、宮本潤子氏の主張をそのまま伝えるだけのマッチポンプ記事だ。

海外メディアもこのアマゾンの声明と協力姿勢を取り上げ(中略)日本のアイドル文化との結びつきに言及し、法律ではグレーゾーンとなる「アイドル」産業について伝えている。

ブルームバーグは、2013年には6億1500万ドルに達するアイドル産業のうちの一部が、年端のいかない少女たちの写真集やDVDの売り上げである、と指摘。同様にデイリー・テレグラフ紙も、日本の『アイドル』産業は年少の子供の違法なイメージへの消費が大きな割合を占めている、と報じた。

bloombergでは「ジュニアアイドル」をアイドル産業の一部かつグレーゾーンとして扱い、telegraphはアイドル産業の多くを違法な商品として扱っている。ただ単に二誌の内容を継ぎ接ぎし、相矛盾する説明を記事内でつなげてしまっている。引用した海外記事の妥当性については考えてもいない証拠だ。

さらに、表現の自由を主張する出版社やアーティストの意見も取り上げ、日本での児童ポルノをめぐる一連の論争を紹介している。

既に見たように、telegraph報道は日本における論争を歪曲した語った宮本潤子氏の発言をそのまま伝えているものだ。記者は日本国内における論争について詳しくないため「一連の論争」については言及しなかったのだろう。(もしくは、宮本氏発言は何かおかしいと感じて言及を避けたか)

BBCでは、昨年からの愛知県警による同法違反容疑での摘発について言及している。このアマゾンジャパンへの捜索も、法律の改定を受けての警察の動きの一つと述べている。(中略)
いずれも、アマゾン日本法人の毅然とした声明を報じ、日本で取り締まりが強化されていることを伝えている。また、日本の法律のグレーゾーンとなる日本のアイドル文化と結びつけて伝えており、今後もこの事象が海外から注視されることが予想される。

BBCは去年6月の所持禁止が捜査の契機となったと伝えている。bloombergは先にみたようにジュニアアイドル誌の取り締まりだと勘違いしている。ここでもまた相異なる見解を深く考えることなく継ぎ接ぎしていることが分かる。telegraphはアイドル産業の多くを違法だと考えており、アイドル文化と結びつけた報道を行ったのはbloombergだけである。この書き方では、多くの海外記事が日本のアイドル文化と結びつけて報じたように読み取れるため、正確な記述ではない。

総評

NewSphereは「日本に対する海外の反応を報道するニュースサイト」である。telegraphのマッチポンプ記事をそのまま伝えるのは、まあ、海外の反応がダイレクトに繋がるという意味で許されるだろう。しかし、複数の海外記事を切り貼りしただけ、それら海外記事の伝える内容が少しずつ異なることについて検討していない本記事は背景や今後の展開への考察を加えた「知識」を得ることが重要とうたうサイトとしてはお粗末である。読者一人ひとりの「知識」を磨く前に、記者の「知識」を磨いて頂きたい。