第3回 ポルノ被害と女性・子どもの人権シンポジウム『子どもの日常を取り巻く性被害〜学校・ストリート・施設〜』 速記録 その2

(司会)二場美由紀氏

本日のシンポジウムの議題は『子どもの日常を取り巻く性被害〜学校・ストリート・施設〜』です。私たちポルノ・売春問題研究会が何故この問題に取り組むかというと、子どもへの性被害の背景に成人を被写体とするポルノがあるからです。中吊り広告やコンビニの成人向け雑誌など女性の身体を性的見世物とするものが世の中には溢れています。子どもたちは日々これらのポルノに晒されています。

本日は学校・施設・医療機関における性被害についてご報告頂きます。性被害の報告は4ヶ月で55件あります。家庭内では親が子どもの裸を撮影したり子どもを性行為に誘う事例が後を絶ちません。この55件も児童の訴えが認められたものであり一部にすぎません。過去に前例のある教員が別の職場に転勤してそこでも事件を起こすケースやポルノを見た人間が真似をする事例が報告されています。うち一人の加害者の自宅には女子高生を扱ったAVが沢山ありました。

警察のとある機関では55名にアンケートを行い、その半分以上は自分も(ポルノで描かれていることと)同じ事をしてみたかったと答えています。日常的にポルノに晒されている環境が人権を大事にしていると言えるのか。暴力的ポルノから子どもは誤った性知識を受けてしまう。本シンポジウムでは私たちに何ができるのかを考え、お互いに高め合いたいと考えています。

幸い、本日は学校、ストリート、児童養護施設から選りすぐりのエキスパートの方が出席されています。金子さんは公立中学校で性教育を実践されてきた養護教諭で季刊セクシュアリティの編集長を務められています。扱う子どもの年齢は中1から中3です。早川さんは児童養護施設の職員です。扱う子どもの年齢は3歳から18歳までです。橘さんは繁華街をさまよう少女たちを描いた『漂流少女』の作者です。扱う子どもの年齢は主に10代から20代です。子どもの性被害の実態は大人以上に知られていません。それぞれの場所における実情を順番にお話願いたいと思っています。

金子由美子氏

保健室で見聞きする範囲で実情について話させて頂きます。学校は安全と思われているかもしれませんが、学校の中で被害にあっている子どもたちは多いです。私は保健室にいて比較的情報が入ってきやすいですが、教科を担当する教師は情報が入りづらいでしょう。子どもは学校の登下校でかなりの確率(3割)がなんらかの被害に遭っています。声をかけて写真を撮らせてくれ、ルーズソックスを売って欲しいといったケースや路上に駐車した車のなかに連れ込まれるケースなどがあります。性被害ではありませんが精液をかけられるというケースもあります。高校ともなれば多くの女性が痴漢被害にあい、みんなが”慣れて”しまいます。

本日特にお話ししたいのは深夜徘徊する子どもたちです。彼女たちは心配する親がいなかったり、一人親だったりした理由から家にいることができません。近頃は近所づきあいも減って制服の女の子が(深夜に)外にいても誰にも声をかけてもらえません。

制服が汚れてしまったためにジャージ登校した被害者が友達に「どうしたの?」と聞かれて友達に話してしまって学校に知れ渡ってしまうケース、保健室に逃げ込んできた被害者に対して「なんで早く言ってくれなかったんだ」と犯人の逮捕を優先するケースなど、子どものケアができていません。スクール水着が盗難にあう、盗撮マニアが保護者のふりをしてもぐりこむなど、性被害は学校の中でも沢山あります。

子どもたちが深夜徘徊する原因の一つにゼロ・トレランスの強化があります。第1ボタンを外していたらマイナス5点、第2ボタンを外していたらマイナス5点と、合計してマイナス100点になったら家族関係などの背景を加味せずに切り捨てることで、子どもが学校から閉め出されてしまいます。そうした子どもはふらふらと街をさまよって異性に声をかけられる――たいていはヤンキーか万引きグループで、彼らに連れ去られます。

中学生はあるときは大人として扱われ、別のあるときは子どもとして扱われます。セックスについても中学生は大人と扱われる情報が蔓延しています。私に興味のある生徒がいると、他の中学生たちは「熟専」とからかいます。”じゅくせん”と聞いてはじめは私も分かりませんでしたが、熟女専門という意味です。こうしたセックス用語の情報の発信は雑誌やメールに起因すると思っています。

たとえばこの週間少年サンデー。中身のほとんどはマンガですが、最初のページからAKB48下着に近い写真です。これを保健室においておいたら「私は胸がないからアイドルになれないね。豊胸手術したい」と言ってくる生徒がいました。こういうものが出回っているのも情報源となっています。

中学生を買春した59歳男性教師の写真を持っている子がいて、なぜそんな写真を持っているのかというと、被害者となった女性はその子の遊び仲間で、ムカツク奴の写真をお守り代わりに持っていると。

※犯罪行為を助長する可能性がある情報については省いて記載しています。

司会コメント

学校は子どもにとって安全ではなく、子どもが教師を見限っている実態が分かりました。子どもがポルノに晒されていることもよく分かりました。

早川悟司氏

児童の権利条約では国の責任とされている社会的養護について話したいと思います。社会的養護には幾つかの形態があります。児童養護施設、敷地の中で生活を完結する児童自立支援施設。情緒障害児短期治療施設は東京にはありませんが、心理療法担当の職員が手厚く配置されています。乳児院は2歳未満の赤子を対象とします。自立援助ホームは生活に関わる費用を自分で支払うため社会的養護ではないと私は考えています。他には母子生活支援施設がありますが、子どもが直接保護されるわけではありません。日本は国際的には社会的養護を利用する割合が小さいとされています。

最近は里親・ファミリーホームへの帷幄が増加しています。単純に言って費用が5分の1になるからです。社会福祉士は180時間の実習がありますが里親は2日間勉強すればなることができます。8月にも養育家庭で子どもが亡くなる事故がありました。だからといってその里親を責めるわけではありません。表に出ないケースを含めたら相当あるんじゃないかなと思います。虐待を受けた子どもはわざとにくまれ愚痴を叩いたりするなど、不適切に育っているわけですから不適切な行動をとってしまうわけで、きちんとトレーニングを受けていても戸惑うのですから里親さんが安易な善意から受けるものではありません。

法的には18歳まで保護の対象で必要があれば20歳まで延長とありますが実際は高校へ行っていなければ保護の対象から外れてしまいます。社会的養護が弱い子どもほど保護の対象から外れるという矛盾があります。

虐待する親が特別変な親というわけではありません。そこには構造的問題が横たわっています。大半が母子家庭であり、貧困し孤立したシングルマザーです。狭い部屋に男を連れ込んで性交渉する場面を見せられたり、部屋の中にポルノ雑誌が無造作にちらばっていたり、そういった不適切な状況で育てられていることが多いと考えています。

虐待を受けた子どもは自尊感情が低い。施設の環境はというと、一つの生活ユニットが20人以上で一つの部屋で4,5人が暮らし、雑魚寝が当たり前です。このような環境では自他の境界、プライベート・パース、どこに触れられてはいけないかという感覚が育ちにくい。自他の区別が曖昧のため、中には入所児童による性的事件も起きてきます。男の子から男の子に対する性被害もあります。加害者側として、被害者側と分離された子は教育機会を失ってしまいます。

施設外に出た子ども、特に女性に見られる傾向ですが売買春や性産業への吸収され、自尊感情の更なる低下が認められ、子どもを産めば構造が再生産されます。住所がなく不安定な収入の子どもたちは男性であればホームレスになるかネットカフェで過ごし、女性は性被害に遭うことになります。早期の年齢での孤立はリスクを向上させます。最低18歳までは面倒を見るべきあり、自身の生い立ちについて前向きな理解ができるように支える必要があります。親は孤立・貧困にあえいでいます。社会から最も虐げられる、声を挙げられない当事者である親の社会的代弁機能の強化が必要です。

ポルノも同じですけれども意図的な「弱者」の容認と放置でうまい汁を吸っている人がいる。そして、我々の社会的無知を無関心。この2つが結びつくと貧困・虐待・性被害の定着と再生産を生むのです。社会が子どもを虐待しているから、子どもを取りこぼさない社会を作ることができるのか考えていきたいと思います。

司会コメント

性被害の実態と言う意味では児童養護に特有な自他の境界が育ちにくい環境が性被害のリスクを高めているという点は参考になりました。男の子から男の子に対する性加害については後に掘り下げて伺いたいと思います。社会的養護されていない子ほど社会的養護から外れてしまうという点についてはこれから考えていきたいと思います。