ひまちゃきSS 1-3

「そんなことはないのです。ヒロちゃんはとっても優しい子ナノです。そのことはわたしがよく知ってるのです」
いつの間にか、俺と雛梨以外にも人が集まってきていた。
馴染みのある声の主を人だかりから探す。
ナノ子は背が小さいため、周りを囲まれると全く見えない。
「ナノ子……どこだ?」
一歩一歩、人だかりが割れてゆく。それはまるで海を割る聖職者のように、俺とナノ子を繋ぐ道が完成した。
「ヒロちゃん……」
満面の笑みを浮かべた彼女は、ふいと。俺から目をそらす。
「どうしたんだよ。どうしてお前まで俺を……まっすぐに見てくれないんだよ」
「違うのです。誤解ナノです」
それもさっき雛梨から聞いた言葉だ。
なおも雛梨とナノ子が何か言っていたが、失意に身を浸した俺には届かない。
「死のう」
ポケットからカンピョウを取り出して、首に巻いた。
両手で強く引っ張る。首が絞まる感覚は一瞬だけ。ぶちっという音を立ててカンピョウの切れ端が床に落ちた。
「死ぬこともできないのか……」
当たり前だという言葉がそこかしこから聞こえる。
「というより、どうしてカンピョウをポケットのなかに入れてたのです?」
「おやつ?」
「疑問系なんですね……さすが先輩です」
そこかしこから、さすがわけわからんやつ学園一という声が聞こえてくる。
「ん〜何やってるの〜?」
俺が来るまで待ってなかったっぽいななねえが顔を見せていた。
「あ、ヒロくん」
「ねねねえ……いままでありがとう」
話しについて行けない(当たり前だ)ねねねえにかくかくしかじかと事情を説明する。
「友人だと思っていた雛梨にも、幼なじみのナノ子にも裏切られたんだ。俺はもう生きてはいけないよ」
「バカッ! バカヒロくん!」
ふわっと優しく抱きしめられた。
「たとえ世界中の誰もが敵に回ったって、お姉ちゃんはヒロくんの味方だからね! だから、軽々しく死ぬなんて言っちゃ駄目。分かった?」
「ななねえ……ごめんなさい」
ぱちぱち、とどこからか拍手が聞こえた。一人の拍手はやがて二人に、そして瞬く間にその場にいる全体に広がった。
「ありがとう、みんなありがとう!」
俺が、周りのみんなが、うれしさにむせび泣いていた。

「ところでヒロくん?」
「なんだい、ななねえ」
「お姉ちゃん、一つだけ言いたいことがあるんだけど」
「あ、私も」
「わたしもナノです」
「黙れ裏切りものx2。で、なんだい、お姉ちゃん?」
シスコンだ……シスコンだとあたりがざわめく。
「だまっとれ、お前ら」
言いにくそうな顔でななねえは、
「トランクスをはいてくれると助かるかなぁ〜と。あ、でもでも、お姉ちゃんにだけは見せてもいいのよ? 他の子には見せちゃ駄目だけど」
ブラコンだ……ブラコンだとあたりがざわめくなかで、俺はそそくさと象さんを隠したのだった。