ひまチャきSS 1-6

「はーい、お兄ちゃんお姉さんたちぃ。朝のHRの時間だよぉ」
舌っ足らずな声で今日も学校が始まった。
「規律、礼、着席」
猫タマの号令に従って席に座り、自然と教壇に視線が集まる。今日のルーン先生はにっこにこ、いつも以上に楽しそうだ。
「今日は皆さんに大事なお知らせがあります」
クラスの大半が突然落ち着きをなくし、廊下の方を気にしだした。
「トイレに行きたくなったのか、はたまた集団食中毒か」
「もし食中毒なら、寄宿舎組の私たちも危ないのです。そうではなくて、噂の転校生を気にしているのです」
大人しいのは、転校生に既に会っている俺やナノ子のような人間だろう。
海上貴宏にしては落ち着き払っておるではないか。ふん、ようやくその小さな器ではおなご一人抱擁することができぬことがわかったか。だが安心せい。お主一人くらいなら、妾が丁稚としてぼろ雑巾のようにこき使ってくれ……やめてやめて、お願いです海上貴宏様、妾が悪うございました!」
手の甲を軽くつねってやると姫はとたんに正直になった。
「くっ、妾の玉の肌がこんなに赤く! おのれ海上貴宏、膨らませた風船を眼前で割る罰に処してくれる!」
地味に怖い刑罰だな。
「はいは〜い。お兄ちゃんたち落ち着いて。その様子だとみんな、今日転校生が来るってことを知ってるみたいだね。でも、ルーンしか知らないことだってあると思うよ?」
本人は威厳に満ちているつもりかもしれないが、はたからみると、ほめてほめてと親にせびる子供の表情にしか見えない。
「先生、僕たちが知らないことって何ですか?」
ノリのいい奴がさっそく質問する。
「なんと、転校生は2人もいるんだよぉ」
うおおおお、とコンサート会場を彷彿とさせる熱気に包まれる教室。HR中よ静かにしなさいと叫ぶ猫タマの声はどよめきに打ち消された。
「それじゃあ2人とも教室に入ってもらうね」
と、教室の扉にルーン先生が向かいかけたそのとき、ガラガラと音を立てて扉が開いた。せっかちな転校生だなと俺は思った。
「うーっす」
教室に入ってきたのは遅刻常連のショウちゃんだった。
クラス全体にはぁ……という落胆の空気が広がる。
「な、なんだよ? アタイが学校に来ちゃいけないってのかよ」
あ、涙目になってる。不良のくせして、打たれ弱いからなあショウちゃん。そんなことないよ綺羅お姉ちゃん、と励まされてなんとか席に着いたショウちゃんが隣の席に座る俺に首を向けた。
「アタイ、ここにいていいんだよなぁ?」
うんと答えると、
「そうか! そうだよな!」
急に元気になるショウちゃん。偶に情緒不安定に見えることがあるんだよなあ。