ひまチャきSS 1-4

ななねえと連れだって学園へ向かう途中、見かけない制服を見かけた。
「噂の転校生なのかしらね。結構美人じゃない。お姉ちゃんにはかなわないけど。ねー、ヒロくん」
答えに困る質問はやめて欲しい。
転校生(たぶん)は、上空に手を伸ばして飛び跳ねている。転校生の視線を追っていくと、何やら黒い生き物が。
「木の上に猫さんが登っているのです。あっ、落ちてしまいそうナノです!」
「落ち――ないわね。ちっ」
姉はどうして残念そうなのか。
それはさておき、左右にふらふらと揺れていて、見ていて危なっかしい。
また、猫に合わせてゆらゆら動く転校生は見ていて怪しい。
あ、視線が合った。
「そこの者、そう、卿のことだ。面を見るに、剛胆無双の者とお見受けする。義なくして勇なきなり、かの者を私の代わりに死地から救ってくださらないか」
やたらと堅苦しい言葉に少し気後れする。
「ヒロちゃん、わたしからもお願いするのです」
「偶にはお姉ちゃんに格好いいところ見せてほしーなー」
しゃーねーなあ。片手に持った鞄をナノ子に預けた俺は、木の幹にとりついた。木登りなんて久しぶりだな。
「なんと有り難い。無事、猫殿を救出した暁には篤き褒賞をとらせようぞ」
「頑張ってナノです」
「フレー、フレー、ヒロくん。フレー、フレー、ヒロくん」
三者三様の応援を力にかえて、おっちらおっちらと登ってゆく。
もうすぐ猫が載っている枝に手が届こうとしたそのとき、「ここは俺にお任せだぜ!」という声が飛んできた。
前方からだだだっと、人が走ってくる音がする。あろうことか、そいつは幹に体当たりをかましてきた。
あっという間に猫はバランスを崩して木の枝から滑り落ちる。水泳のターンの要領で、俺はとっさに幹を蹴って空を飛ぶ。届くか――?!