柳広司『虎と月』

山月記のオマージュ作品。文体が「ぼく」調のため、すわ子供向け?と思ってしまったがとんでもない。国語教科書随一の名作(二番目は「先生」第三部)を見事に解体し、換骨奪胎した名作だ。全20編。起承転結に分けると1〜4、5〜8、9〜14、15〜20となるかいな? バランスの取れたよい構成だ。編ごとに新たな謎が提示されるため、続きを読もうとする気にさせられる。編ごとに登場する登場人物の区切りがきっかりしていて、分かりやすい。
ただ、全体的に現実に沿ったリアルな解釈が行われるなかで、10章・11章・15章・17章・20章にファンタジー色が強い描写があり、話を統一しきれていない感じを受けた。物語全体のオチはファンタジー的な解釈に基づくものなのだが、直前に少年が自身の成長を自覚した描写がある直後だけに、腑に落ちない、違和感のある読後感が残った。