pianissimoでキーとなるのが人を狂わせる装置『リフ=ラフ』である。リフ=ラフとは「繰り返し苛立たせる」という意味を持ち、また、「つまらないもの」という意味も持つ。ここでは劇中におけるリフ=ラフについて考察を加える。
pianissimoのシナリオはヒロインの一人、御巫久遠が元いた世界の平行世界であると考えられる。それは最終シナリオにおいて彼女が「本来有り得るはずのない未来」と認識していること、「御巫久遠は量子化されている」との彼女の台詞から伺える。唯一、メインシナリオから分岐できない久遠編『CONDUCTOR』が久遠が元いた世界の物語である。
「繰り返し苛立たせる」存在、それは主人公である工藤奏介である。彼のピアノの音が人を狂わせるのか分からないという苛立ち、何故か彼に魅せられてしまうという自分の中の不可解な感情。これらを解決しようと、久遠は量子化して過去の自分へと転移する。
平行世界へ現出した御巫久遠が「その時代の久遠」として試行錯誤した結果、それがpianissimoでプレイヤーが選択するシナリオである。いくら時を繰り返しても御巫久遠は結局、工藤奏介を取り込んで音を解析することもできず、工藤奏介に自分が惹かれる理由も分からない。「繰り返し苛立たせる」世界を御巫久遠は幾万と繰り返したであろう。
御巫久遠が幾度も世界を繰り返し続けるうちに殺されるはずののヒロイン・白河綾音が生存する平行世界が生まれた。物語上の大きな転換であるとともに、御巫久遠という存在にとっても大きな転機となる。それまでは「世界」において選択肢を持つ存在は御巫久遠だけであった。彼女は物語に登場するキャラクター群の中では神のごとき存在である。しかし、運命をねじ曲げた白河綾音は御巫久遠を凌駕する。死の運命から脱出し、本来外れるべきであった弾丸をねじ曲げて的中させる。御巫久遠にとって、自分がなしえなかったことを実現した白河綾音は神と呼ぶべき存在であった。
かつて自らの手で殺した姉を神格化し、神を追い求めて果てしな神へと近い存在へと至った御巫久遠。しかし、神の座は知識すら持たない、白河綾音によって奪われた。御巫久遠は結局自分が姉の幻影に踊らされていた「つまらないもの」であった。それを悟った御巫久遠は自分の望み「繰り返し苛立たせる」存在を手に入れることがかなわぬと知り、これまで決して行ってこなかったこと、工藤奏介に無実であると告げることに決心した。
かくして「繰り返し苛立たせる」量子化のループは終わりを告げ、「繰り返し苛立たせる」存在への執着を捨て、「つまらないもの」として生きていた御巫久遠という存在も死を迎える。
主人公・工藤奏介としてしか行動できないプレイヤーとしては「だからどうした」である。pianissimoが面白くない原因はプレイヤーキャラを間違えたことにあるだろう。
最後に。これもネタばれとなりますがErogespaceの感想のなかではSkyさんの感想がお奨めです。読みやすいしちゃんと考察してるし。