第4回 ポルノ被害と女性・子どもの人権シンポジウム 「国際的に広がる性売買被害 〜オーストラリア・韓国・日本の現状から〜」 キム・コ・ヨンジュ氏(韓国)

売春防止法について

2004年制定。要点は2つ。1.業者と買う男性を処罰する 2.女性の保護。1997年末に金大中氏が大統領に当選。同氏の支持者である女性が官僚に進出したことにより女性学者、女性の活動家の人的資源が政府に集まったことで法律が制定された。性売春防止法以前は1961年に制定された淪落行為等防止法があったが、性を販売する女性のみを処罰する法であり韓国社会にとって大きな変化であったが新法を受け入れるための準備は整っていなかった。女性支持者は性を売る人すべてを「被害者」にしようとしたがこの論理では国会通過は不可能であるため、女性を「被害者」と「自発的販売女性」に分けることにより国会を通過することができた。しかしながらこの妥協により、現実とのギャップ、現実の文化が変わらないという限界ために多くの問題が発生した。
肯定的な影響として、以前は性売買販売=犯罪という意識はなかったが制定後は性売買=犯罪という認識が広まった。また、被害者を法的保護・支援することが可能になったことが挙げられる。営業所が集まっている地域がなくなり、前払い金の問題が解決し国家保護を受けることにより被害者が自立するケースも生まれた。性売買被害者相談所etcのインフラ拡張も進み、性売買被害者の特性を考慮した研究・医療・相談が受けられるようになった。斡旋行為は取り締まられ、犯罪行為による収益は没収されるようになった。
否定的影響として、法制定後も性産業は拡大し続けた。2010年の取引額は7兆ウォンと言われ、業者が82%を得ている。形式的には性売買を行う地域(売春宿が密集する地域)はなくなったがインターネットなどを利用した変種の形態が生まれアンダーグラウンド化した。「自発的性売買」に対する男性購買者と斡旋についての処罰がなく、法律もきちんと施行されてはいない。理由として?権力集団=男性中心の国家機能に(法を執行する)意志がない。営業所や非合法組織の利益創出に対して安定した空間を提供している。企業で働くメディア関係者や公務員、大学教員が出世の手段として接待、個人の遊びのために女性性を「遊び」とし性売買文化の恩恵を受けている人達がいる。?性売買する女性をすべて「被害者」とせず、自発的と強制的という区分を作った。この結果自発的=合法化、性労働を認めろという要求が高まることとなった。
今後の方針、代案を述べる。韓国では目に見える売春地域はなくなったが、いくらでも簡単に性売買を行うことができる。韓国は性売買禁止国家ではない。現実を反映できていない法を廃止要求する必要がある。特に営業所を廃業させる法律の整備が求められる。変種の形態を処罰する法律も必要だ。また、国家機構に女性主義者の進出が望まれる。女性男性すべてにおいて男女平等意識を持っている人が国会に進出することが重要だ。また、脱性売買女性に対する支援がより多く長期的に行われるべきだ。現在、性売買を行う女性の支援は一ヶ月70万ウォンと少ないため自活した生活は難しい。
最後に、どれだけ法が整備されても文化的認識を変えない限り社会は変わらないということを述べたい。女性を道具として扱う家父長文化を廃止し青少年期に男女平等教育を行うことが緊急の課題である。

青少年の性売買について

援助交際は1997年初めて韓国に紹介された。「非行」青少年ではない「普通」の10代女性が性売買に携わるという事実に韓国社会は衝撃を受け「日本の影響」であると報道されたが、援助交際は以前から韓国社会に存在していたものである。初期は個人同士の取引が多かったが、やがて組織的になり売春業者などが関わるようになり、青少年性売買法の成立後は購入男性と女性がインターネット上で価格、場所、回数、性的サービスなどの種類などについて条件を出し、合意したときに対面が成立する仕組みとなり、少女に対する希少性の減少(10代女性の性商品化、家出の増加、新自由主義による就職困難などが原因で性市場に流入する10代女性が増加)、また男性の危険負担が増加(青少年性売買法性購入男性の身元が公開されるなどの処罰が法制化され)したことにより値段は(1回?)青少年性売買法の成立前の80万ウォンから10万ウォンへと下落した。
インターネット上で男女が出会う場所をセッティングする場合女性が不利である。性購買者に受けるかもしれない暴力から守ってあげるなどと訴えることにより成人や同年代による抱え主の介入が増加した。抱え主に騙されて一度でも関わると、抱え主と手を切ることは大変難しい。同年代抱えぬ主の後ろには成人抱え主が存在することが多く、警察による摘発を受けた際に隠れ蓑として同年代抱え主を利用することが多い。成人抱え主がいない場合も、性売買を行わせないと生活が苦しいという理由で他人に性売買を強要する。
青少年性売買を行う女性への認識について。性犯罪をした女性=被害者であるが、捜査を行う警察は被疑者として扱う。摘発された10代は警察の強圧的態度による処罰を恐れて協力的ではない。そのため購入男性の摘発が難しくなる。また、10代女性は保護という名の処罰を受けている。保護観察、夜会外出禁止etcの制約がかかるがこれらは窃盗や暴力を犯した加害者が受けるものと同じ処罰を被害者に下している。一部の監察官による侮辱、言葉による性暴力などの二次的被害もある。10代女性の保護観察官はその地位ゆえに、10代女性が保護観察官による被害に対して助けを求めることが難しい。

まとめ

性売買防止法と児童・青少年の生保後に関する法律の不備について。成人女性の個人型=自発的だとされ、児童は一律に被害者とされる。このため児童は「自発的に性売買を行っているが若いため保護される」という意識を生み、10代では保護されるが20代になると直ちに処罰を受けるという慣習を生んだ。性購入男性への処罰は規定されているが実際処罰されたり身元が公開された例はあまりない。懲役を受けるのはわずか3.5%だ。性暴力not equal 性売買と韓国社会では考えられている。自発的性売買を認めたためにこのような青少年性売買に対する認識も出てくる。従って、青少年性売買は女性が社会進出するのが難しい社会で、教育を家庭だけに任せていては、家父長文化が存続し認識も変わらない。より多くの社会的関心が求められている。女性主義者により自発的性売買の廃止が実現されたら青少年性売買に対する認識も変わってくるだろう。

感想

韓国の現状について非常に分かりやすい報告でした。社会の意識が変わらない限り限界があるという一節は従軍慰安婦問題に対する日本の態度を思い起こさせるものがあります。本講演では女性を「自発的性売買者」と「被害者」の二つに分けたことが、現在の状況を生んだ元凶であるとされていますが、説明を聞く限りこれは一面では正しい一方で、一面では間違っている――解決はしないと思います。シンポジウムの後半でノーマ氏により韓国女性がオーストラリアで売春を行う人身売買ルートが成立していると主張しますが、自発的性売買の廃止はこの傾向もしくはアングラ化を助長するだけでしょう。性売買をする女性は多かれ少なかれ強制的に売春をしているのだという議論について私は同意しますが、だからといってすべての性売買をする女性を被害者としてしまうと今度は逆に国家が性売買女性を支援する理由、他の苦しんでいる女性と比べて性売買女性に限って「手厚く支援」する理由が薄弱となります。女性が”売春をしなくても生きていける”ように国家におけるセーフティネットを手厚くする、あるいはセックスワーク論を利用して現在性売買している女性がよりましな暮らしをできるように支援することが対策だと私は考えます。

「ぶっかけ」や「緊縛」をオーストラリアに紹介した日本が悪いと責任転嫁したノーマ氏のあとで「援助交際は日本の影響であると韓国社会は日本に責任転嫁した」という説明を受けるのは苦笑せざるを得ませんね。