魔法使いの夜 雑感

初見はレイヤーを重ねて「動き」を表現するスクリプトに感銘を受けました。主人公ふたりの出会いのシーンはいつもの奈須きのこ。そこから中盤までのミラーハウスとフラットスナーク戦は文句なしの出来映え。キッツイーな童話の世界に引き込まれました。

しかし、そこから突然に物語は失速します。中盤から終盤までずっと久遠寺邸が舞台となることにより物語は停滞し、場所の停滞は初見では印象的だったスクリプトにも品切れを生み、見たことのあるCGをゆっくりと何度も見ることは逆に退屈さをも生み出します。サウンドノベルとしてではなく空の境界と同じくノベルとして発表すればよかったのではないでしょうか、と思ったほどです。

次に青子の人物造形。作中の言葉を借りるならば「冷酷だけれども残酷ではない」ここぞという場所で人情が顔を見せてしまう遠坂凛の匂いを感じて、時系列で言えば逆なのですが、キャラがかぶっているなあと不満な気持ちが頭をもたげます。

そして歴代最高にしょぼいラスボス。いや、TYPE-MOON月姫以降、中盤のボスが一番強くてラスボスはそんなに強くないのがもはや定番ですが、もうちょっと派手さがないとラスボスは務まりません。教会の殺戮機械なんかどうでしょうかって、これだとFateとかぶるのか。きついな! ラストバトルにおける伏線なき主人公最強伝説もどうにかして欲しいところです。

あとは番外編が理解しがたい。本編から1年後に設定していますが、その1年間の描写は全くないにも関わらず、空白の1年に出番があったことになっている、本編に出て来なかったキャラクターが登場します。もうついていけません。助けて!

本作は未完成であった14年前の奈須きのこの「原点」のリライトです。私は空の境界月姫Fateと「原点」を起点として雄大に展開された世界観を見た後で「原点」を見たわけです。その分素朴さ、小ささが目立ってしまったのだと思います。しかし一方で奈須きのこ作品に初めて触る人としては未完成の本作品を通して奈須きのこを評価することとなり、それはもったいない気がします。

本作品が商業的に失敗した、ということは型月ファンの多さから言ってありえないでしょうが、長年作品を出していないメーカーとしては疑問符の付く作品を出してしまいました。この汚名をそそぐべく、月姫Renewalか月姫2をなるべく早く出して欲しいものです。以上。