unknown


unknownを観てきたので感想。鳴り響く電話をバックにして工場内の各ショット。荒廃した雰囲気のフィルムに乗せたオープニングは臨場感を高めてくれる。電話の音が消えてデニムの男が目を覚ますと途端、それまで気を失っていた男が目覚め、酩酊したことを暗示するのであろう重低音が場内に鳴り響く。ナチス党は重低音が人間の不安を煽ることを知り、演説には常にスピーカーから重低音の音楽を流していたというが、もしゲッペルスがそのとき場内にいたならば吐き気を催すかの表情で制作者の無能を詰っただろう。座った場所がスピーカから近くだった(かもしれない)ことを差し引いても、緊張感を与えるにはその音楽はあまりにも騒音に似すぎていた。もしかしてこの映画は駄作ではないか、との重いが頭に浮かぶ。だが以降は激しすぎる音量を耳にすることはなく、安心した。


場面の転換。身代金を駅のロッカーへ運ぶ女と刑事たち。


陰鬱な工場内で気絶していた男たちが目を覚ます。誰もが記憶を失っていたが、一人が拾ってきた新聞から三人が誘拐犯、二人が拉致された被害者だと判明する。時間と共に蘇る記憶の断片。誰が誘拐犯で、誰が犯人か。疑心暗鬼を押さえつけて工場からの脱出を計る男たち。だが、彼らの奮闘も空しく誘拐犯のボスが工場に到着した。途中途中で夫の無事を祈る女の映像を挟みつつ、オープニングの緊張感を保ったまま物語が進む。


ボスの到着は犯人と被害者を確定させる時の鐘だ。デニムの男、縛られた男、手錠の男が犯人、作業着の男と鼻が折れた男が人質だ。デニムの男は人質の殺害を命令されるが、これに逆らう。実はデニムの男は覆面捜査官だったのだ。人質と協力してボスを殺すデニムの男。


と、ここまでで終わってくれたならば名作とは言わなくとも佳作だったのだが突如、デニムの男は作業着の男の妻と密通していたことを思い出す。そう、これは「デニムの男が覆面捜査官であることを利用してボスに誘拐を持ちかけ、人質騒ぎの混乱に紛れてボスついでに作業着の男を殺害、邪魔者を消した二人はめくるめく快楽の世界へ」という筋書きだったのだ。ってそれなんだよ! ここまで緊張感と疑心暗鬼の中で育まれる友情を描いていながら、オチは火サスもどきと来たか! 畜生、むさ苦しい男の世界を返せ! 女なんて嫌いだあ!