戦塵外史外伝 負け戦のジョナン(1)

今を遡ること八百余年、大陸北西部のラグナカン平原で大規模な戦があった。平原の名前から「ラグナカン平原の戦い」と呼ばれるこの戦いは、サクシァ帝国の没落とエイジェル王国の成立を決定づけた一戦である。
当時、大陸北西ではサクシァ帝国と、帝国に対し反旗を翻したエイジェル王との間で激しい戦闘が続いていた。理由は、サクシァ帝国の腐敗にある。
三百年の長きにわたって大陸北西部を支配し続けてきたサクシァ帝国は、帝国歴二百年を過ぎる頃には退潮の兆しを見せ始めていた。官吏の汚職は中央と地方とを問わず、年々増大する年貢と厳しい賦役が農民たちを苦しめていた。一部の土地では農民たちが蜂起し、帝国軍により鎮圧された。一年の多くを雪に覆われる高地や作物が育たない砂丘、蓄えが少なく弱い土地に住む人々が追い詰められた結果の反乱だった。
根幹が揺らぐ帝国は、なおも百年の命を残していた。初代皇帝ラムセスが作り上げた官僚制の優秀さゆえだろう。帝国の崩壊には一人の暗君の登場を必要とした。