海外記事注釈4連発+α

まずは the daily beastの記事。

United Nations data show that Japan is still, in fact, the world’s largest producer and consumer of child pornography. Its usage is widespread, with as many as one in 10 men admitting they’ve watched it or that they own it, according to the book Sexnomics, by economist Takashi Kadokura.

まず日本が事実、今もなお、児童ポルノの世界最大の生産消費国であるとの国連のデータとは何を指しているのでしょうか。ぱっと思いつくのは国連子どもの権利委員会(CRC)第3回政府報告書審査に基づく総括所見(英文和文)です。ここには児童ポルノの世界最大の生産消費国であるとの記載はありません。そして、データについてはこう記載されています。

I.データ
データ収集
5 . 選択議定書違反を構成する行為に関する逮捕件数についての締約国からの情報については認識しているが、委員会は、児童の売買、児童買春及び児童ポルノの発生状況について、被害児童の人数の観点から、年齢・性別・民族的集団及び地理的場所ごとのデータが存在しないこと、また、選択議定書が対象としている特定の分野に関する調査が行われていないことを懸念する。
6 . 委員会は、締約国が調査を実施し、選択議定書が対象とする犯罪を登録する中央データベースを整備し、こうしたデータが体系的に、特に、被害者の年齢、性別、民族的集団及び地理的場所ごとに分けて収集されることが確保されるよう勧告する。こうしたデータは政策の実施を評価する上で必要不可欠なものである。また、データは、罪種別に訴追及び有罪判決の件数に関するデータも収集されるべきである。

やや旧聞に属しますが、2009年のインターネット上の児童ポルノに関するレポートには次のように記載されています。

83. While the total number of identified victims is not known, statistics on sexual predatorsarrested and/or convicted are more readily available. For example, in the United States,3,884 individuals were convicted in 2007-2008; as of 31 March 2009, 12,085 sexual predatorshad been arrested, 6,237 of them deported from the United States. In Japan there were676 arrests in 2008; in 2005 police in Australia made 191 arrests; in Italy 182 individuals wereconvicted in 2005.

二つの資料を合わせると、国連は各国が報告したデータをとりまとめているだけなのではないでしょうか。日本における児童ポルノの生産量及び消費量のデータを日本政府が作成しているというニュースは聞いたことはありません。CEDAW第6回報告に対する女子差別撤廃委員会最終見解(平成21年8月)にも日本が事実、今もなお、児童ポルノの世界最大の生産消費国であるとの記載はありません。

次に、Sexnomicsについて。執筆者が別記事によると、Sexnomicsは門倉 貴史著『世界の下半身経済が儲かる理由―セックス産業から見える世界経済のカラクリ』の独自英字タイトルのようです。同書には次のような記述があります。

援助交際」が盛んになった90年代後半は(後略)。また、インターネットで日本発の児童ポルノも氾濫していた(インターネット上の児童ポルノのうち、日本から発信されたものが全体の8割を占めるともいわれた)。このため、日本は海外から「児童ポルノ天国」というレッテッルを貼られ、先進国のなかでもとくにロリコン男性が多い国と受け止められたのである。
門倉 貴史, 世界の[下半身]経済のカラクリ, アスペクト文庫, 2013, pp.130-131

では、現在、日本国内には、どの程度のロリコン男性が存在するのだろうか。内閣府が2002年8月に実施した世論調査(全国の15歳以上の5000人が調査対象)によれば(後略)
同p.133
※引用した箇所について、書店で単行本版と文庫版の内容が一致していることを確認しています。

2002年内閣府による児童の性的搾取に関する世論調査によれば記事が指摘するように児童ポルノを見たことがある者が15%との調査結果が出ています。ただし、上記記事は児童ポルノを持っている男性が10%いるとしていますが、これは間違いです。10%の人間が、児童ポルノを持っている人間を知っていると答えたものです。20人のうち10人が児童ポルノを持っていることもありえますし、20人のうち1人だけが児童ポルノを持っている可能性もあります。
なお、本世論調査における児童ポルノの説明は第二条の条文を見せたものであり、水着グラビアを児童ポルノと判断した可能性があります。

Almost 80 percent of the child pornography transferred over the Internet is said to come through Japan. According to Interpol, Japanese “entrepreneurs” at home and abroad are also major producers of child pornography in the world market.

インターネットの児童ポルノの80%は日本産との発言があったのは1998年です。日本が主要な生産国と呼ばれたのも児童買春・児童ポルノ禁止法成立前(特に1996年のストックホルム会議)のことです。元記事のリンク先が2000年の記事であるにも関わらず、門倉氏の著書に1990年代の出来事であると明記されていながら、15年以上昔のことを今のことであるかのように装う非常に悪質な記事です。

なお、執筆者のJake Adelstein氏はライトハウス関係者です

次にthe guardianの記事。

Japan is one of the world's biggest markets for indecent images of children, along with the US and Russia. Police said the number of reported victims of child pornography in Japan stood at 646 in 2013, although the real number was thought to be much higher.

世界最大の市場としてアメリカとロシアを例示しているのは一見分かっている風ですが根拠がありません。たとえば2013年のIWFのAnnual Reportでは児童虐待画像・ビデオの54%が北米、43%がロシアおよびヨーロッパ、3%がアジアとなっています。たとえばINHOPEの2013年報告ではホスト国はUSA37%、オランダ25%、ロシア17%、カナダ7%、日本2%。商業に限ってはUSA54%、オランダ19%、ロシア8%、日本6%、カナダ4%となっています。少なくともアメリカと並んで世界最大の市場とは言われたくありません。

Tokyo authorities in May said they would ban sales to children of manga depicting incestuous relationships, a popular subgenre of Japanese pornography. In addition convenience stores in the capital were told to make displays of pornographic manga less conspicuous in the run-up to the 2020 Olympics.

今後ありえる話ではありますが、コンビニ誌を目立たないように配置しろという指示が警察あるいは東京都から出たという日本の記事は見たことがありません。本当だとすればスクープですね。

執筆者のJustin McCurry氏といえば「日本の5000億円の漫画市場のかなりの部分を性的に露骨な漫画が占めている。多くは学生や子供のように見える大人が、強姦されるかSM拘束されることが特徴である」とデマ言ってくれちゃった人ですね。

豪ABCの記事

"So it is very grey - they're not even clear on what child is, except the definition seems to be from six to 13."

いや、特別法では18歳未満と明確に定義しているのですが。性的目的所持の説明までしている人がなぜこのような間違いを。

Japan is one of the world's major sources of child porn distribution, and while there are no real numbers, the US State Department describes Japan as an "international hub for production and trafficking of child pornography".

"one of the world's major sources"については前述の通り。米国務省は確かに"international hub for production and trafficking of child pornography"と指摘しています。でもtrafficingはともかくchild pornographyについては米国だけには言われたくないですね。キャバクラに流れていそうだけれど日本の人身売買は児童ポルノのために行われているのか?という疑問もあります。

"while there are no real numbers"という注釈が入れられているなど、総じて客観的な論調の記事です。

CNNの記事

The U.S. State Department's 2013 report on human rights practices in Japan labels the country "an international hub for the production and trafficking of child pornography."

It cited Japanese police data showing the number of child pornography investigations in 2012 rose 9.7% from a year earlier to a record of 1,596. The cases involved 1,264 child victims, almost twice as many as in the previous year.

第一段落は前掲のとおり。第二段落の2011年から2012年で被害児童数が2倍に増えたという記述は虚偽の可能性が高いものです。児童虐待及び福祉犯の検挙状況等(平成25年1〜12月)によると2011(平成23)年の被害者数は600名、2012(平成24)年は531名です。では2012年の1264名は何かというと先ほどの数字(事件検挙を通じて該当年に新たに特定された被害児童数)に年齢鑑定を実施して立件した被害児童733人を加えた被害者数となります。つまり、CNNの記事は2011年については年齢鑑定分を含まない数字、2012年については年齢鑑定分を含んだ数字、異なる種類の数字を比較しているのです。2011年の年齢鑑定を実施して立件した児童数を加えた数字は見つかりませんでしたが、2007年の年齢鑑定を実施して立件した被害児童数が1696名であるという記事があります。2007年の数字が正しければ状況は好転していることになります。

An article in Wired in 1999 reeled off a list of examples in Tokyo: "Vending machines sell schoolgirls' used panties, which the girls sell to middlemen. 'Image bars' specialize in escorts dressed in school uniforms. Telephone clubs feature bored adolescent girls earning spending money by talking dirty. Sex shops sell a porn magazine called 'Anatomical Illustrations of Junior High School Girls.'"

だから、2014年の現在に1990sの話をするのはやめてください。

ライトハウス藤原氏のインタビュー

0"37:はい。被害児童の年齢は次第に若くなり、12歳やときには0歳や2歳の児童が被害に遭うケースもあります。さらには以前よりもずっと暴力的になっています。これこそが改正案が通った理由だと思います。

児童虐待及び福祉犯の検挙状況等(平成25年1〜12月)小学生の割合はここ10年で高まる傾向にあるが、被害児童の年齢が次第に若くなると言えるほどではないようである。ただし、このグラフには被害児童を特定できなかった場合に年齢鑑定を行って立件したものに関する時系列データは一般に公表されていないため含まれていない。被害児童を特定できなかった場合も含めると小学生が半数を占める。また、約8割が強姦・強制わいせつの手段により製造されたとされているが、こちらも時系列データが公表されていないためどのような傾向にあるのか不明である。



2"53 藤原:事実、児童を虐待した犯人は児童が性的いたずらを受けるアニメーション画像を集めています。しかし、率直に言って、実在児童の被害者を助ける運動を行っている反人身売買組織としてはあまり漫画を気にかけたくはありません。私たちは児童ポルノの被害児童を保護したいのです。確かに漫画はとても暴力的です。とても、まさに、極めて、非常に、ろくでもないものです。しかし私たちは段階的に事を進めたいと思っています。

児童ポルノを集めているから児童を虐待するのか、児童を虐待するから児童ポルノを集めるのか、例によっての因果関係と相関関係の混同です。

3"58 藤原:児童ポルノのほとんどは日本由来もしくは日本から輸出されていると聞いたことがあるでしょう。私は状況は変わったと思っていますが、頒布に対して効率的な法律が法律がないため日本は巨大市場で有り続けています。しかし、今や、単純所持がついに禁止されたことにより、東南アジアの児童虐待画像を持っている日本の旅行者のような輩はもはや、日本もしくは国際的な取引ができなくなるでしょう。このことは児童ポルノ市場を潰すための大きな一歩だと思います。

児童ポルノのほとんどは日本由来もしくは日本から輸出されているという状況が変わったのはいつからだと思っている、いつまでそう海外に報告していたのか興味深いところです。日本が巨大市場という論点はアメリ国務省と意識が合っているようです。国際的取引があったとしても、少なくとも日本から国外に出て行くものについては頒布罪で捕まえて画像を押収できるためハブ機能は果たせないと思うのですが、判然としません。

5"08 藤原:単純所持を禁止していなかったので、ペドファイル児童ポルノを集めたり交換したり複製することにはリスクがありませんでした。そのため20歳や30歳になったかつての被害児童の多くが私たちに言います。「10歳の頃の画像がいまでもインターネットで配布されています。こんなんじゃ外に出て行けないし、ボーイフレンドを作ることもできません」かつての被害者やサバイバーにとって今回の法律案は彼ら彼女たちの生活を永遠に変えることになるでしょう。なぜならば、ついに児童虐待画像が単純所持によってなくなるのですから。

非常に残念なことですが、単純所持禁止で児童虐待画像がなくなるならばIWFやINHOPEの2013年報告のような有様にはならず、単純所持が禁止されて以降も永遠にその方々は苦しむことでしょう。

6"06 藤原:アメリカやカナダのような西洋文化になじみのない人は、長い、とても長い間児童の裸体に商業的に慣らされています。人々は女性や母親や父親まで当然のことだと思っています。そんなわけで法律の改正に10年以上もかかったのです。グローバルには、私が国際的標準だと思うレベルでは、あなたもご存じの通り、みんなが児童を虐待するアニメーションを禁止することを話しているというのに(とてもやってられないという感じで)日本はとても遅れていてようやく単純所持禁止が通っただけです。とても遅れています。

スウェーデンドイツデンマークはなかったことにされました。