表現規制13のウソ その2 サイバー犯罪に関する条約は非実在青少年を禁止している!

規制反対派のなかでサイバー犯罪に関する条約が非実在青少年を禁止している(ただし、留保できる)と誤解している人が偶にいます。サイバー犯罪条約児童ポルノに関する記述は次のものです。非実在に関係しそうなのはAritcle 2(b),2(c)です。

Article 9 – Offences related to child pornography
2 For the purpose of paragraph 1 above, the term "child pornography" shall include pornographic material that visually depicts:
a a minor engaged in sexually explicit conduct;
b a person appearing to be a minor engaged in sexually explicit conduct;
c realistic images representing a minor engaged in sexually explicit conduct.
3 For the purpose of paragraph 2 above, the term "minor" shall include all persons under 18 years of age. A Party may, however, require a lower age-limit, which shall be not less than 16 years.
4 Each Party may reserve the right not to apply, in whole or in part, paragraphs 1, sub-paragraphs d. and e, and 2, sub-paragraphs b. and c.
Convention on Cybercrime

第九条 児童ポルノに関連する犯罪
2 1の規定の適用上、「児童ポルノ」とは、次のものを視覚的に描写するポルノをいう。

性的にあからさまな行為を行う未成年者
b 性的にあからさまな行為を行う未成年者であると外見上認められる者
c 性的にあからさまな行為を行う未成年者を表現する写実的影像
3 2の規定の適用上、「未成年者」とは、十八歳未満のすべての者をいう。もっとも、締約国は、より低い年齢(十六歳を下回ってはならない。)の者のみを未成年者とすることができる。
4 締約国は、1d及びe並びに2b及びcの規定の全部又は一部を適用しない権利を留保することができる。
外務省訳(リンク先PDF注意)

それでは、同条約の注釈書を見てみましょう。

101. The three types of material defined in paragraph 2 for the purposes of committing the offences contained in paragraph 1 cover depictions of sexual abuse of a real child (2a), pornographic images which depict a person appearing to be a minor engaged in sexually explicit conduct (2b), and finally images, which, although ‘realistic’, do not in fact involve a real child engaged in sexually explicit conduct (2c). This latter scenario includes pictures which are altered, such as morphed images of natural persons, or even generated entirely by the computer. This latter scenario includes pictures which are altered, such as morphed images of natural persons, or even generated entirely by the computer.

101.第二項の3類型は、第一項の犯罪を犯した場合のために定義されました。実在画像の性的虐待描写(2a)、性的にあからさまな行為に従事する未成年のように見える人物を描写したポルノ画像(2b)、最後に'現実的な'、実在児童を伴わない、性的にあからさまな行為の画像(2c)です。最後の定義には、実在児童のモーフィング画像(実在児童の画像を加工したもの。例えば実在児童の頭と大人の女性の体の合成写真)や完全にコンピューターによって作られた画像が含まれます。


2(a)は実在児童を対象とし、2(c)は児童があからさまに性的な行為に従事している写実的な画像(ただし、実在児童は無関係)を対象とします。2(b)は実在児童でもなく'realistic'ではない画像、すなわち成人が未成年を装っている場合を念頭に置いた記述です。

2(c)の例として実在児童を加工した画像や完全な(実在児童と無関係な)CGが挙げられています。非実在青少年が含まれるのではないかという懸念については、「サイバー犯罪条約の起草時にcartoonの記述が注釈書から削除された経緯があり、対象に含まれない」(『警察学論集』第55回第5号 瀧波宏文「サイバー犯罪に関する条約について」)と明確に否定されています。

結論

サイバー犯罪に関する条約は非実在青少年を禁止していない。

このように本件についてはこれ以上ないほど明確に否定できるため、推進派が「サイバー犯罪に関する条約は非実在青少年を禁止している!」と主張することはないようです。その代わりに、サイバー犯罪条約を延長して非実在青少年を禁止すべきであるというような論旨展開をします。

国際的には、コンピュータ技術を使って画像を改変したり、創造したりして現実と見分けがつかない形で製作される画像が中心的な論点となっています。これについても当然対応が求められます――日本は欧州評議会の「サイバー犯罪条約」に署名しており、批准のためにも法改正が必要です――が、日本で特に問題となっており、規制が見送られたコミック、アニメにおける子どもポルノ描写を犯罪とする必要があります。 婦人新報2002年9月号P3-4 宇佐美昌伸「子ども買春、子どもポルノ禁止法」見直しの課題