1996年第1回児童の商業的性的搾取に反対する世界会議(ストックホルム会議)のECPAT資料を検証する(4)

最後に、児童虐待製造物の法的規制について書かれた章を見てみましょう。

Article 175 of the Japanese Penal Code forbids the printed portrayal of adult genitals, intercourse and pubic hair. However, such representation of children’s genitalia is not stringently regulated. Furthermore, Japanese commercial producers have created ingenious ways to avoid prosecution or law enforcement intervention by creating sexually explicit materials which just barely avoid depiction of forbidden body parts.[34]


日本の刑法175条では成人の性器、性交、陰毛を描写した印刷物を禁じている。しかし、子どもの性器の表現については、厳しく規制されていないのが現状である。その上日本の商業用製造者は摘発や警察の介入を巧妙に逃れて、禁じられている身体部分の描写をかろうじて避けながら、しかも性的であることが明らかなポルノをつくり出すのである(註33)。

34 Jack Seward, ed., Japanese Eroticism 6 (1993); Constantine, supra note 11, at 160-61.

一見して明らかな間違いが2カ所あります。1つめ、1980年-1990年代に刑法175条で性交は禁じられていません。2つめ、英文の前掲11は正しくは前掲12である。ECPAT仕事しろというかlatexを使ってください。

さて、ECPATの基調レポートで引用されているページはP160〜161ですが、THE PORN TRADEの章は159ページから始まっています。そのため、本項ではP159とP160を引用します。

The answer is that Japanese pornography is what it is because of a delicate interplay of historical factors, fierce competition, and, most important, stringent police surveillance that forbids the picturing of sexual organs and public hair.(P159)
So what do magazines do if they aren't allowed to show organs or even public hair? How can pornography exist? The answer is: evasive maneuvers.(P160)


日本のポルノは歴史的要因、熾烈な競争、特に性器やヘアーの描写を禁じた厳しい警察の監視などの微妙な相互作用のもとにあった。それが答えです。(P159) ※日本のポルノはどうしてこんなに豊かで種類が多いのかという質問に対する回答。
性器に加えてヘアーさえも禁じられているのにどうやって雑誌を作るんだい。どうしてポルノが存在できるんだ。その答えは、回避行動です。(P160) 

元ネタでは「日本では性交が禁じられている」という嘘記述はなく(Jack SewardのJapanese Eroticismにもおそらくないでしょう。入手できれば確認しますがどこにも売ってそうにない)、日本のポルノは刑法175条で性器とヘアーの描写が禁じられているから発展したのだというまっすぐな見方をしています。一方、ECPATの論調はポルノが禁じられているのにポルノを作っていると言わんばかりのものです。

ここまでECPATの基調レポートを検証してきましたが、日本に関して説明した箇所の多くに認識誤りや牽強付会が見られ、また、引用元の書籍では正しい情報あるいは実情に即した内容だったものがECPAT資料では牽強付会されることにより誤った情報になっていることが確認できました。

ほんとうにひどいものですが、最近(2008年)になるとだいぶ改善されましてGUARDIAN記事を”概ね”(かなりの割合、が大部分に変わっているように思えますが英語のニュアンスはよく分かりません)そのまま引用するようになっています。

もっとも、これはこれでGuardian記事が誤りでして、Guardian記者は野村総合研究所のオタク層の市場規模推計を見て、オタクが見ているのは性的に露骨な漫画だ、性的に露骨な漫画は漫画市場5000億のうち1000億、かなりの割合になるじゃないかと意図的に誤読したものと思われます。