スウェーデンにおける表現の自由と児童ポルノについて

スウェーデンにおける表現の自由について

スウェーデンには、憲法に相当する4つの基本法がありますが、その中に出版の自由基本法表現の自由基本法が含まれています。スウェーデン基本法は一般の法律と異なり同一の文言の法案が2回国会において議決されること、2回目の議決は総選挙後の新たな国会で行われること、議決される議案は、総選挙の9か月以上前に国会に提出されることなどの手続が必要とされています。

スウェーデンにおける児童ポルノ禁止の歴史とその特徴

  • 1971年:出版の自由法の改正により同性愛、小児性愛まで含めたポルノ合法化
  • 1979年:刑法典に児童ポルノの頒布禁止。および出版の自由基本法の改正->地下化
  • 1993年:国会にて単純所持規制が議論される。
  • 1999年:刑法典に単純所持禁止。あわせて出版の自由基本法及び表現の自由基本法改正。実写は単純所持禁止、絵画については頒布や移転を目的とする作成・所持が禁止。

スウェーデンにおける児童ポルノの定義は「ポルノ的な図画において児童を描写したもの」です。児童が性的行為に関わっていなくとも、ポルノ的場面に子どもが存在するだけで処罰の対象となります。

児童ポルノ犯罪規定は刑法典の公の秩序に対する犯罪の章に置かれています。保護法益は実際に描かれた児童だけでなく児童一般の尊厳をも含むと解されています。ガチの社会法益です。

2010年の改正

改正の背景

児童ポルノへの関与が多国間で組織的に行われていること。IT 技術及びインターネットの発達が児童ポルノの作成を安価なものにし、頒布の規模を飛躍的に拡大させている。

児童ポルノの多国間組織的取引はよく聞く理由ですが、アルカイーダと同じで存在はしているが政府の都合で誇張されているものの一つでしょう。過去最大規模の児童ポルノサイトの例を見る限りでは単純所持は不要で、民主党案のような(複数)取得罪で事足ります。

児童の定義の変更

思春期の成長が未完了である者又は18歳未満の者。ただし、思春期の成長が完了している場合、図画及びそれに関する状況から18歳未満であることが明らかであると判断されれば足りる

児童の定義の変更により、出版の自由基本法及び表現の自由基本法における適用除外の定義も変更された。

単純所持の定義の変更

「利用可能な状態にされた児童ポルノ画像を閲覧すること」を禁止した

例外規定の明確化

未成年が合意のもとで作成・所持している場合は処罰の対象外とした一方で、児童本人が自身ポルノ画像を作成および所持する場合は処罰される場合があります。このように例外規定について刑法典に細かく記述されていることもスウェーデンの特徴です。

スウェーデンにおける国民的合意の基準

2010年の改正の前段階として2005年に政府公式レポートが作成、2007年に公開されています。これは442ページにわたる大部の資料であり、半端でない労力がかけられていることが分かります(その他の年の資料も40〜60ページはあるようです)。1993〜1999年にかけてどのような議論および政府レポートが作成されたのかは分かりませんが、スウェーデン参事官のカイ・レイニウス氏が言う「表現の自由より子どもの人権擁護が大事であることに国民的合意を得た」という発言は、表現の自由基本法の硬性さといい、それだけの重みを持っていると言えるでしょう。

しかるに我が国における児童ポルノ禁止法は議員立法であり、国会審議で政府レポートが提示される/国民に公開されることはなく、自民党および民主党の改正案に関しての議論も公開されておりません。このような状況で「表現の自由より子どもの人権擁護が大事であることに国民的合意を得る」ことができるはずがありません。

日本の漫画イラスト所持に関する事件

2010年6月30日、日本のマンガの画像を所持していたマンガ研究・翻訳者であるシーモン氏に対し、被告人自宅のコンピュータとその他の記録媒体の中に保存していた合計51 点の画像が児童ポルノであるとみなされ、軽度の児童ポルノ犯罪の有罪判決を下しました。シーモン氏は控訴

2011年1月28日の高裁判決では児童ポルノ法に抵触する絵の数が51枚から39枚に修正されたため罰金額が減少されました。なお、児童ポルノでないとされた12枚は公開されています。12枚のうちにはラブひなが含まれていること裸の女の子が互いに向き合ってバナナを食べてる画像(※ありのひろし氏のI腺上のアリア)が児童ポルノとされたことがわかります。シーモン氏は上告。2011年10月28日に最高裁の審査が開始されています。

スウェーデンにおける刑法典における保護法益および児童ポルノの定義からすればシーモン氏が無罪になる可能性は低いと言えるでしょう。

もしシーモン氏が有罪になった場合、papsjpやecpatjpやunicefjpが「日本のアニメが児童ポルノとして認められた」と喧伝すると思われますが、スウェーデンにおける児童ポルノ法は公の秩序に対する犯罪であることを引き合いに出し、スウェーデン海賊党が「マンガ・アニメは児童ポルノではない」という主張を打ち出していること、スウェーデンの大手新聞SvDが同判決について批判的であることを説明すればよいでしょう。

閑話

スウェーデン児童ポルノ規制にもいつもの通りECPATが登場します。スウェーデンで規制されかけた12枚を見ると、猪瀬副知事はどこぞのECPATに智恵を頂いたのではないかと邪推したくなりました(笑)

次回はスウェーデンにおける他の規制、性表現規制・酒の販売規制・体罰禁止について取り上げようと思います。

2011/12/11 00:21 「写実的な裸の子どもの絵が児童ポルノとされたこと」という記述を削除。
2011/12/15 00:03 「裸の女の子が互いに向き合ってバナナを食べてる画像」の元ネタが分かったので追記