2011/11/12 コミコン・インターナショナル2011 コミックアートカンファレンス講演報告会

日米間の表現と規制を巡る乖離 兼光ダニエル真氏

コミコン会場で開催されたコミックアートカンファレンスで講演をやりました。都条例の話はアメリカにも伝わっていますが日本の法律に関する情報そのものが少なく、情報の出所が扇動的な場所(注:2chまとめなどを指していると思われる)のため正確な情報が伝わっていません。また、日米の前提条件が違うことで認識のズレが生み出されています。たとえば、アメリカでは美少女という表現から性的なものを感じ取ることが多いのですが、日本では「美少女」は記号になっています。

同じ物体、事柄、事象を見ていても、文化と言語が違うと解釈が大きく異なる可能性があります。Omnis Traductor traditor「全ての翻訳は裏切り行為」 国内外において情報の格差があるのに乗じて国内の規制推進派が外圧を利用して圧力を度々かけている話題についてこれまでなんどか言及していますが、これは珍しいことではありません。価格.comのように同じ商品に対する値段の高低であればすぐに分かりますが、インターネットで自分の知らない情報を探すのは大変です。日米間の会話はジョン・ダワー『容赦なき戦争――太平洋戦争における人種差別』に見られるように色眼鏡の上に成立しています。

これは仮定ですが国内の規制派は萌えetcが浸透している「妄想の帝国」を管理したいと考えているのではないでしょうか。急進的に自分の考え方を浸透させたい人々が今流行っているものを除けば自分の考えが流布されると考えているのはないでしょうか。一方で欧米では萌え文化のこれ以上の浸透を食い止めたいという論調が見え隠れします。

こういった排除の声に対して日本のコンテンツの正当性を訴え、その多様性と社会的に好ましい特徴を主張し、真っ向から議論することも時として我々は辞さない姿勢が今後必要だと思います。なぜならば国内に対して私たちは既にある程度までの市民権を握っているのであって、それを明け渡す必要がないのです。

たとえば日本の漫画界には女性の地位の高さという好ましい特徴があります。日本の漫画単行本の半分は女性の手によるものです。映画監督の僅か7%が女性である北米に比べれば日本の漫画界は女性の社会的躍進に貢献していると言っても過言ではないでしょう。

海外から批難された際も、その批難を受け止めてきちんと反論してその作品の正当性を訴えるという事は欧米ではあたりまえの事であり、それが出来ない作品とその作者は糾弾されるのに値するというのが欧米式の考え方です。昨今の日本でも規制要望のクレームがまかり通ると、それを土台にして更なる発言権を伸ばすというパターンが珍しくありません。規制推進派の影響力はその数に依存するのではなく、それだけ表現者の口を閉ざすことが出来たかという具体的な成果に帰結するのを念頭に置くべきです。

やがてこの暗黒時代は終焉を迎えます。私はその点については一抹の不安もありません。しかし問題は日本がその暗黒時代を引き延ばすのに荷担するか、より短縮させる役割を果たせるかです。皆さんと共にこれについて今後とも考えていきたいと思います。

※メモと兼光ダニエル真氏の準備原稿から文章を再構成しています。

栗下都議挨拶

都条例は世論が動き、都政の問題がメディアに取り上げられた少ないケース。多くの皆様とともに監視、注視してゆくことが必要。

日本とアメリカの漫画文化の違い 藤本由香里

都条例について海外に理解してもらうことが大事だと思い、アメリカの大学の先生である鈴木しげ氏に誘われて参加しました。最終日にも関わらず70〜80人が来て下さり、質問もかなりたくさん受けました。AnimeNewsNetworkの取材も受けました。兼光ダニエル真氏は日米の文化の違いについての講演でしたが、私は漫画文化の違い、女性の立場から見た都条例について話しました。

アメリカ人に説明する場合、日本の漫画市場の大きさを説明する必要があります。日本の出版物の36%、売り上げの23%が漫画です。また、日本では女性向けと男性向けがほぼ半々の割合です。一方、アメリカでは漫画が出版物にしめる割合は1%とマイナーです。漫画はコミック専門店でしか売られておらず、女性が足を運ばないため男性文化だと思われています。

日本の漫画はアメリカにおける映画・小説と同じです。日本では青年向け漫画(モーニング、YJなど。not R18)が53%と、子供向け漫画より多いほどです。本棚は少年誌、青年誌といった掲載雑誌により整理され、レーティングが自然となされています。日本の漫画は性・暴力描写が多いと言われますが、その理由として高い年齢層向けの雑誌の存在が挙げられます。一方、アメリカでは漫画は子供のものという意識です。

日本では漫画は子供に年の近い作家が書いて子供が自分の小遣いで買うものですが、欧米では大人が書いて大人が子供に買ってあげるものです。

性・暴力は思春期の課題です。日本の漫画は性・暴力表現が多いと言われますが、影響を受けて犯罪が多いでしょうか。日本の強姦被害者数はとある統計では64カ国注53位であり、10代の殺人は64位です。性・暴力という思春期時代の衝動とどうつきあうかを漫画でシミュレーションしていることがこうした結果に繋がっているのではないでしょうか。犯罪が最も多かった60年代以降、犯罪は一気に少なくなっています。69年のハレンチ学園までは禁欲的な作品ばかりでした。また、幼女強姦被害者数はロリータ作品があふれるようになる80年代からほぼ0に近い数字です。女性が泣き寝入りするケースもあるでしょう。ですが、60年代より泣き寝入り率が高いでしょうか。かつては処女があたり前で生き死に関わる事項であり裁判で男性検事によるセカンドレイプも発生していました。しかし、フェミニズム運動により女性の取り調べは女性警官が担当するようになり訴えやすい環境が整えられています。それでも数値は下がっています。

性表現の解放が進んだのは男性向けだけではありません。女性向けポルノ、つまりはレディースコミックとBLは必ずしも性描写を伴うものではありませんが中には激しい表現もあります。マッキノン氏はレディースコミックのような女性向けポルノグラフィについて男が書いて男が読んでいるに違いないと仰っていますが、そのようなことはありません。レディースコミックもBLもレイプ描写が多いです。アメリカでは「レイプ表現なんか女性が見たいはずがない」とされていますが、日本の現状からするとレイプ表現を禁止すると女性が困る可能性があります。

一見すると同じレイプ表現ですが男性向けと女性向けのレイプ表現には違いがあります。男性向け作品では、レイプは相手の価値を下げるものです。しかし、女性向け作品は違います。レイプと言ってはいるけれど本当に嫌なわけではない、女性が性欲を持ってはいけないことになっているため無理矢理だから仕方ないんだもんと言い訳するためのものです。つまり、愛ゆえのレイプです。理性をすっ飛ばすほど相手が素晴らしいからこそレイプされる。女性は官能で磨かれるという言葉もありますが、女性向け作品ではレイプされることにより女性の価値が上がるのです。攻めと受けという言葉があります。どちらが強いかというと受けのキャラクターの方が強いのです。受けのキャラクターが魅力的すぎるから攻めざるをえない。全てが愛に回収されてゆく、それが女性向け作品です。「女性はレイプが嫌いに違いない」とは限りません。

都条例改正は状況が悪くなったからではありません。状況が改善されていることは協議会報告でも認めています。コンビニ協会の2004年改正ではコンビニでは18禁作品は置かないこととなり、グレーゾーン図書については2カ所のテープ止めを実施しサンプルディスプレイに使わないこと、とされています。このような状況における更なる規制は必要だったでしょうか。

ただし、都条例改正を受けて審議過程について改善が見られます。審議会は厳正な審議が必要な場合は公開できるものとされています。審議会に挙げら得れない諮問図書は非公開のままですが、指定図書の閲覧ができるようになり、希望する委員には前日から閲覧許可が出るようになりました。

表現規制問題の今後、アメリカにおける問題意識を踏まえて 山口貴士

コミコン参加者には次の様な傾向が見られました。

  • Free Speechに対する権利意識の高さ。一方で曖昧さを理解できません。
  • 法廷闘争が選択肢に常に入っています。
  • 表現の自由に金を出します。中央政府に対する分配には否定的ですが、その分カンパには積極的です。
  • 表現の自由で弁護士が食えます。私(山口弁護士)は一生かけての道楽だと思ってますが
  • 他国の文化について知識や関心はない。日本の豊かな表現文化の背景が理解できず、アメリカの表現文化に不自由があることを意識していません。2009年のシーファー発言についても知りませんでした。
  • 法的規制には敏感。自主規制やキリスト教的タブーには問題意識がありません。

アメリカにおける問題意識を踏まえると、ファジーに対する耐性は失ってはいけません。一方で権利意識の強さは見習うべきです。表現の自由が必要であるという理論武装が日本では必要です。コスト感覚も必要です。日本の市民運動は一部の人が頑張るけれども、疲弊して潰れるケースがよく見られます。過酷な上、皆は口だけだして金を出しません。コンテンツそれ自体ではなく、その背景にある文化的社会的要因について宣伝する重要性を感じました。日本の裁判所は違憲判決に消極的であるためアメリカ式の訴訟戦略はとれません。

憲法21条には「法律に定める範囲で」という記載はありません。なぜこういう形で憲法を作ったのかというと、日本は自由主義を採ったからです。民主主義は自由主義を獲得するための方法の一つです。民意により選ばれた国会議員の作った法律が裁判所により拒否できるとする81条、憲法典改正への高いハードルを課した96条からそれが分かります。表現の自由は法律をもってしても制限できない少数者のための権利です。

表現の自由について、イギリス系では立法権が強く違憲立法審査権がないため恣意的に選別がなされます。アメリカでは判例で裁判所における違憲立法審査権が認められています。日本はアメリカと同じ制度であるにもかかわらず、事実上は内閣法制局が事前審査する仕組みになっています。日本国憲法下の違憲判定は8件のみであり消極的です。それには幾つか理由があります。

1.キャリア裁判官
試験の上位200名が裁判官として育成されます。日本の裁判官は腐敗していません。事件処理の能率が高く、能吏タイプと言えるでしょう。ただ、大局的、政策的判断ができるかというと……

2.自民党政権
裁判官は内閣の任命制です。アメリカだと共和党民主党の2大政党制で40歳台から死ぬまで勤めることが珍しくありませんが、日本では定年前のポストの「上がり」として4,5年その地位に座っているだけです。また、15名中3名ほどリベラルな人が含まれていますが、3分割された班ごとに動くため影響力は……

3.裁判官に表現の自由がない
上位審の裁判には関われず、彼らはそもそも自由な生活を送っていません。自由奔放にしたい人はそもそも弁護士になって裁判官にはなりません。blog,mixi,ニコ動をしている裁判官がいますか? 表現の自由の恩恵を彼ら自身が受けていないのです。女性差別撤廃委員会の構成国を見ると表現の自由がない国々の代表者が委員に任命されています。同様の理由で彼らに表現の自由に配慮しろというのは厳しいものがあります。

では、これ以上創作物を減らさないためにどう守ればよいでしょうか。司法的救済は頼りになりません。議員教育やパーティ券購入などのフォローが必要です。フォローと言えば、都条例が採決された後の反応を見てむかつきました。個々の議員の気持ちを忖度しないで可決された途端に口汚く罵るとか、あってはならないことです。表現の自由に関心を持つのが普通の市民だと分かってもらう必要があります。気長に細く長く、燃え尽きないことが大事です。

話題になっているのでTPPについて少しだけ話します。非申告化で同人文化壊滅は理論的にはありえますが、アメリカでも同人グッズが溢れています。正しく怯えましょう。誤った情報に右往左往するのは議員さんから馬鹿にされます。非申告化よりも危惧すべきはアメリカ企業による出版情報の独占です。Googleのような一企業の定めたルールによって格付けされるとなると出版文化の多様性への侵害となります。

質疑応答

Q.規制派が言う誤った性情報が漫画に溢れているという批判についてどう思われますか。

A.(藤本氏)誤った性表現とはどういったものでしょうか。わかりません。漫画を皆で読むことで情報が正されるのではないでしょうか。女の人から見て差別的な表現とかあるよね、とは思います。それに、現実とのフィードバックで表現は変わっていくものです。

Q.漫画研究では統計的な研究はありますか。
A.(藤本氏)雑誌調査シートというものを作っています。暴力シーンや性描写のカウントなどを主だった雑誌について5年に1回実施しています。

Q.アメリカで性思考と性表現が同一なのは何故でしょう。
A.(兼光氏)キリスト教のせいです(笑) 日本は共同体を意識して、役割に対応して表現を変えますがアメリカではそうではありません。アメリカ社会は流動的で転職することが普通です。個人の概念が強く、イギリス・アメリカでは性意識とアイデンティティが絡まっています。「君の部屋のインテリアはとても素敵だね。どんなゲイを雇ったんだい?」といったジョークがあるように、性意識による決めつけがあります。

Q.北米では州間の取り締まりが厳しいのでしょうか。
A.(山口氏だったと思います)州間は連邦法で規制されます。わいせつ法における規定「視覚的に描写された想像上の未成年のわいせつな性描写」は4件のみ適用されたことがあります。やたらめったら使って違憲判決を受けることを警察も恐れています。

Q.コミコンの手応えについて一言
A.(藤本氏)かなり伝わったと思います。ダニエルの講演にあった認識のズレを一つ挙げるとアメリカではレイプ=強姦の定義で嫌がっていることが前提になっています。ポルノに対するエロティカのような、レイプ以外の表現がないかと探しています。ハーレクイーンレイプとか。
A.(山口氏)行って良かったと思います。違う立場の人に説明しようとすると根本まで掘り下げる必要が生じます。ダニエルのコネでメディアが取り上げてくれたように、繰り返すことで影響を与えていけば将来の布石になると思います。海外に行って、話して、意見を聞けるのは単純に楽しいです。
A.(兼光氏)ミネソタの小さなコミックコンベンションで若いアメリカ人のコミック作家志望者はみんな日本風の絵でした。その割にはコミコンに日本の出版界の存在が小さい。対話することは自分達を「人として」認知してもらうことです。遠い世界にある火星人扱いされている=相手を人として思っていない状況では交渉相手を蔑ろにすることに対する心理的抵抗が小さくなります。

来賓挨拶

(浅野都議)
昨年6月からこの問題をやってきて、中野ZEROで賛成発言をした際は沢山手紙をもらいました(笑)TPP問題を見て分かるように政治家は意外と脆くて意外と何も考えていなかったりします。世の中の人はみんなそんなものです。自分にとって都合のよい情報は手に入れますが、不利な情報含めて収集してどうすべきかを考える人はいません。日本には情報リテラシーがありません。

政治家は自分の選挙に対しては馬鹿ではありません。「○○さんに入れたよ」と言ってくれる人がいても、本当に票を入れて頂けたのかどうかは分かりません。人を信用しないといけないけど、人を信用できない職業が政治家です。まずは政治家に情報を渡すことから始めましょう。

ゼロか百かを求める人が多すぎます。都度都度、議員も考えます。駄目と思った議員でもメールを投げる価値があります。例えば今、誰もメールを出していないので「表現規制について」と書かずに「重要な情報です」と書くと読んでくれるかもしれません(笑)

日本人はロビイスト活動が苦手です。その人が会派で主流派にいるかどうかが重要なんです。都条例に私は賛成しましたけれど、ほかにも執行部に協力したり「幹事長に取り入る」ことで青少年審議会の委員になることができました。自分達の意見を届けるためには支援する人を上に行かせる必要があります。一人を支えることも大事ですが、上に行く人間を捕まえておくのが大事です。

(うぐいすリボン 荻野氏)
12/17に浜松で表現規制について考えるイベントをやります。ほかに、自分の地元でイベントをやりたいという方がいれば声をかけて頂けると嬉しいです。

そのほか、山花郁夫議員、宮崎タケシ議員、西沢都議、みんなの党第五区より立候補予定の三上ひでひろ氏、東京共産党国原?氏より挨拶あり。