講演1 「図書館の自由」と「有害図書制度」を考える 佐久間 美紀子
(注)tibizuさんのレポートを読むとためになると思います。
『タイ買春読本』には3種類ある。初版、改訂版、全面改定版。改定版では写真が修正されている。全面改訂版では抗議記録が1/3を占めるようになり初版とは別の本になっている。
1995.12 カスパル静岡グループが毎日新聞に投書。1996.2「アジアを考える静岡フォーラム」主催で静岡県の図書館をよくする会、カスパル静岡グループ、タイ女性の友の3者シンポジウム開催。1996.3 カスパル東京グループは出版社に抗議したが図書館への蔵書はOKという立場。静岡グループは東京グループの方針と対立し、のちに「静岡の子供の未来を考えるひまわり会」へと名称変更。
1998.12 東京グループによる訴訟。1999.1 ひまわり会が図書館へ廃棄要求。1999.2 ひまわり会が静岡県へ有害指定。審査するにも実物がなかったところ、ひまわり会が審議員に実物を貸した。書店で買えない図書をどのように青少年が手に取るというのだろうか。
全面改訂版は売買春を考える資料(出版記録)が加わっている。ここについてはカスパルも誰も言及しない。本の中身は問題ではない。図書館の自由。
図書の貸し出しを続けられる状況を作れたのはよかった。子供の環境を守るためではなく、図書館の自由を侵害する口実になっていた。『タイ買春読本』のほかにもデータハウスはフィリピンや台湾など「夜の歩き方シリーズ」を4,5冊発行しているがそちらは言及されない。カスパルらは児童売春という大義名分でさかんに発言するが、中身を見ても明らかな子供がいない。
自分達の考えが『タイ買春読本』により歪められて伝えられたとの主張だが、それまでの書籍に関わる論争であれば、自分たちの意見を出して本にしたものだが、全部すっ飛ばして訴訟を起こした。タイ女性の友はフォーラムでパネラーとして呼んだのに話をしない。
問題が起こる=その図書の価値が上がる。「読者が隠れている」図書はターゲットになりやすい。子供は声をあげられない。市内の幼稚園/図書館から『ちびくろサンボ』集めて焼かれたこともある。「本を全て貸し出し、閲覧させないといけない」一方で「破られたり盗まれる可能性がある」という図書館の矛盾。
無料の原則。情報格差の是正。アメリカのミステリーではよく調べものの場所として図書館が出てくる。情報は形にして残しておかないと次世代に受け継げない。本は媒体がない――(保存に)強い。図書館は市民が資料を使いこなせる――地域と住民が自ら決定できるよう支援する役割。電子化すると、地域で電子化できない情報が入手できなくなる。地域情報はマスメディアに載りにくい情報であり、入手の手間がかかる。市民が支える必要がある。
過程を全て公開するのが強みになる。「資料を作る」「記録を残す」包括規制がなぜ問題か。特定しないで知る・知らせるをぼかしてしまう。有川浩で図書館が取り上げられたのはありがたいけど、図書館職員はもっと地味な仕事。「自分でできることは補完する」国会図書館に「けいおん!」がないからおまえら寄付しようぜ、とか。
日本の資料が日本にない。プラネ文庫。GHQが検閲するために集めた本の2/3は国会図書館にない。60年代の学生紛争時代の各派のチラシを一番持っているのはアメリカ。
講演2 全国各地の青少年条例の現状 〜公文書開示請求で見えるもの〜 上田 浩
名称。ほとんどの都府県が有害図書、東京と岩手が指定図書、新潟は販売等制限図書。分類。個別(緊急)指定、包括指定、団体指定。完全自殺マニュアル以降「犯罪を〜」の定義が追加される。個別規則は埼玉、静岡など審議会規則で作るところも。指定本数も県でムラあり。件数は減少傾向。予算人員の減少、包括指定の影響、区分陳列の浸透。PTAの圧力も弱まりフィルタリングに力を入れるように。
包括指定。奈良県では実写は1ページ以上となるが厳しすぎて誰も守っていない。埼玉、千葉の「何人たりとも見せてはならない」は違憲になるかも?年齢確認のためのリストバンドは条例上の年齢確認手段としては認められない。東京都は同人サークルは事業者ではないとしているが、反復・継続をどう判断するかは県による。
団体指定。東京オリジナルの表示図書規定。同人のR18は東京都は表示図書として認定していない。神奈川オリジナルの団体表示図書。知事が指定した団体のR18図書。罰則はないが平成18年に追加された努力義務。大阪では昔有害図書の反対運動があって努力義務を設定した。
東京都の放送の義務は某前田先生の進言。秋田県は背表紙or雑誌名のみの陳列。栃木は東京では黒塗りされている審議会に上げる図書がすべて公開されている。群馬は秘密投票。長崎はひぐらしの鳴く頃にを8%で指定。長野のひまわりっ子育成県民運動。3ない運動。読まない、見せない、買わない。意義申立の制度なし。行政不服審査法。「何人たりとも」と書いている場所ならこれで戦える?
青少年条例と国の関係。実質的に内閣府政策統括官が所管。全国の管轄課と情報交換している。地方では本屋よりエロ本自販機対策が包括指定の理由として大きかった。現在は携帯、PCのフィルタリング優先。TL、BL、青年コミックについて議会でこういうものがあるけどどうだと言う議員が出てくると対案として条例強化。千葉県が団体指定を入れようとしているようだ。今後の傾向は十分の一ページ規定の繁殖脅威と暴力団関係コミックの指定増加?
講演3 性表現規制の文化史 日本とアメリカ 白田 秀彰
異端審問官の仕事はユダヤ教徒をキリスト教へ改宗させること。仕事が減っていた頃にルター派、プロテスタントの摘発という仕事ができて大喜び。江戸の出版統制は「徳川家について語らせない」こと。遊郭に関する規制は遊興はけしからんという意識から。維新以後皇室尊厳を侵す言論を取り締まるものから軍部批判の取り締まりへ。敗戦で仕事がなくなる。猥褻が問題になるのはこの時期?1980年にヘアヌード解禁されたあたりから「青少年に有害」が始まった?
0.結論
性表現規制の理由 その1.キリスト教以降の性への忌避。キリスト教国ならわかるが日本では疑問。財産継承秩序のための結婚秩序は方が管轄する領域ではないのでは?「浮気・不倫はよろしくない」は精神に関わる事項、法で裁く事項ではない。 その2.違法表現カテゴリが要求されている。いったんシステムを壊すと復活できないので口実として利用している。
目次1~2 なぜ性表現を悪いものと思うか。キリスト教論理 3~4 判例および司法判断。選挙民・議会・法曹界。言論・表現の自由をどこまで守るか。アメリカ修正第一条は非常に重要だと考えられている。日本では最高裁判所判断は公共福祉、公序良俗をもととするためアメリカの論理はそのまま使えない。 5~7 明治以降の風俗禁圧
1.性表現規制には、宗教的信条が基礎にある
自然信仰には教義・聖書がない。筆下ろし以前に手を出すのはNG。世界を説明する理由としての一神教。カソリックでは整理時の性交渉ダメ、着衣要etcつまり神のことを忘れるから快感を感じてはダメという考え。
猥褻。猥=しどけない 褻=ケ(ハレの対局)。 猥褻=言論の自由の枠外。禁圧して当然。ラテン語では嫌悪すべきもの。猥褻文書取り締まりは信仰に結びついたもの。修道女が修道院の中で〜教会秩序への攻撃と捉える。obscene=薄暗く、じめじめした、いやなところ。庶民が住んでいる貧民窟のイメージ。ポルノ=売春婦、グラフ=描写。猥褻は性的な概念を含むものではない。ポルノグラフィの定義は倫理規範により変わる。倫理規範は上層民が設定したものであり、下層民女性はすべて売春婦。ポルノグラフィは記号的。裸の女性/男性が突然出てきて興奮するか?法的規制を課すだけの基準になるか?
上層。相続・戦争・婚姻。純血、自分の子供であることを重要視。処女であったときのみ保証できる。男の子を産んだあとは女性は自由になれる。女性もまた管理されるべき財産。処女を失うと価値なし。結婚式はローマの奴隷儀式が由来。花のコサージュ=処女の証。ギリシャの女性の価値は低い。ゲルマンは女性の地位がギリシャより高く、男性と同様に戦争に参加し財産を持っていた。プロテスタント諸国は処女性を大事にしない。ゲルマンでは土地の概念が重要で夫の土地で不義を働いた場合、妻と間男の2人が処刑された。ローマでは純血外見が重要で、不倫したら2人とも死刑。
下層。男女とも働く、ただ女性の職業は限られ売春の割合が大きい。つまり、純血・性的規範=上流民。
理性主義。神様規範から理性による規範へ。植民地支配を正当化する理屈。酒やマリファナは庶民が働かなくなるから国家が規制。性も同じ位置づけ。結婚は宗教と関係がなかった。第四回ラテラノ公会議で一夫一婦制が教会の裁判管轄権に。教会は財産を管理したかった。性は教会の管轄――教会の教義に違反するとアウト。正常位置以外はアウトetc。庶民が読むパンフレットは検閲対象外だったが、1727年 R v. Curl事件を期にポルノグラフィが社会秩序への挑戦と認められるようになる。
2.アメリカ社会には、キリスト教論理が存在している
カソリックとプロテスタントの中間にある英国教会に我慢ならない聖書原理主義の清教徒はクーデターを起こしたこともあり危険視されていた。迫害される宗教は先鋭化する。ソドミー=昔は宗教が認めない形式の性行為。性的にがちがちな人間にはネイティブ・アメリカンの信仰が悪魔的に見え、迫害されるのではという被害妄想に囚われた。その教義が憲法を形成。
イギリスの貧民=カソリック。ドイツ=カソリックorプロテスタント。アメリカ=先に来た清教徒が上層にいる。行く教会で宗教が分かる。カソリックは下層。カソリックは教義はともかく現実的。1920年代、国の景気がよくなると性規範がゆるむ。戦争すると性規範を強化する。何故か。戦争に赴く際に男性は女性に処女を求める。それに応じた女性が他の女性を差別する。日本だと筆下ろしが15歳で理屈上処女はいない。ところが大正期には道程が誇るべきステータスとなった。教養ある男性は結婚まで云々。第二次性徴から10年禁欲しろ、ができるか?規範は財産のある上流向けの人間だけのものだった。
日本の1968年の代表団は上流階級と会う。『純血の近代』バンドリング・デーティングという恋愛のルールがあった。ダンスパーティの男が一定の法則に従って手紙を出して相手側の家に訪問し食事が終わると両親がいなくなる。親は何が起きるか知っていても関与しない。宗教上禁止されていない形式の恋愛は許されていた。ヨーロッパの上流階級と、日本の武家階層の純血概念とが結びつく。
3.性表現規制への議会と司法の立場
都市部にスラムを作る移民。下層民がマジョリティになると支配階層は恐怖する。下層民の上澄みを取り込んでマジョリティに組み込む。”名誉白人”の発想。階層上昇に成功した人間が最も差別主義者となる。信仰復興運動=禁酒法のベース。ポルノは男を誘惑して売春婦へと連れ込むとして禁圧。
革新主義の時代。中級階層と労働者の連帯。自分達が道徳的に優越しているから上層を批判できる。女性は社会的地位は低かったが、女性はより論理的であり男性を指導できるという論理。1930年代ポルノへの非難。男性の性的攻撃性を強調。自分は道徳的男性であると主張できるのだから、組織化された女性たちに政治家たちがなびかないわけがない。19世紀前半、道徳的であることが奨励されていた。徐々に猥褻が悪いものだという観念が作られる。法律で禁止、悪いものだ、法律で禁止、悪いものだ……の自己再生産。 village people「YMCA」。熱心な宗教家や信者が道徳的であることを求めるのはよい。国がやるのは問題だ。
女性キリスト教禁酒同盟が禁酒法を作り、日本では明治半ばで廃娼運動や売春防止法ができる。1960年代良書を求める市民の会が警察をサポート、裁判への圧力。立証困難な場合に証言に代える。法廷助言者がいると便利。議会は規制立法を出すが司法は中立の立場からブレーキをかける。反道徳的影響を受けるのは専ら労働者階級とされる。キンゼイ報告により「常識」のゆらぎ。日本の猥褻基準はロス基準を採用してずっと続いている。猥褻表現を限定して、保護対象外とした。
刑法で禁止される性表現、ソドミー法。のちに廃止される。商売が絡むとアウト。ベトナム反戦運動による上流の保守化。Redrup判決では性表現に関する嫌悪感がなくなったことから、それ以降は未成年者をターゲットに。青少年は性表現を欲しない者、ピュアという神話はやめて欲しい。Ginsberg判決では嫌悪感では規制できないとした。子供を守る場合は成人には無理な規制でもOKになるのではという期待。
大統領諮問委員会。学者の良心。大人はいいけど子供はダメ、はキリスト教的観念の残念。大人はハード・ポルノのみ規制すべき、子供は規制してOKとした。ミラー基準。現在も使われている基準。州ごとにばらばらの「共同体基準」のためインターネット時代になって、一番きついところでやると勝ちやすい状況が生まれる。
何故、私(白田氏)がこの発表をしているのか分からない。宗教、民俗学をベースとした話題だが専門の人は知っていること。何故それを言わないのか。審議会の人の前では言いにくいことが問題。裏づけが取れない。学術論文にすると注釈が必要。専門家が話すべきことだ。
4.日本社会には、性を忌避する倫理が存在しなかった
『夜這いの民俗学・夜這いの性愛論』漁村で白田が調査したことと似ているが証明はできない。日本の事実上の性開始年齢は13歳だった。明治政府が外国からの非難をおそれて混浴と入れ墨禁止。逆らう奴=ヤクザのシンボル=入れ墨。着物着て歩いている次元で「旦那様」。武士、豪商、豪農では家を守ることが伝統だった。養子を受け入れたり番頭に娘をめとらせたり。経済共同体の維持が目的なのか、自分の子供に継がせるという概念が少ない。男性・女性経験が多いと粋とされた。財産のある女性は男性をよりどりみどり。盆踊りの後に乱交が行われ、村のガス抜きに。村の祭りを取材に行くと「お前誰と寝たんだ」「誰それ」「そっか」という会話を聞くことができた。村の子供が自分の子供である可能性があるから共同して育てる。寺の神社、仏閣がそのような社会制度を担保していたため寺、神社が夜這いの場所となった。ex.伊勢神宮の近くに売春地帯。性的なもの=イヤなものではない。境界を越える行為だった。
八木透『男と女の民族誌』寒い地域は近親相姦が多い。同じことは北欧でもある。どこかの国で父親が娘と性交渉を持つことが問題ない国もある。村八分された家では近親相姦が見られる傾向がある。昭和30年代までは筆下ろしがなくともみんな性交渉を持っていた。制度的な結婚は明治20年に輸入されたものが大正期に市民に広がり、昭和30年代に一般家庭にまで広がった。男性/それ以外の2分法。小さな子供は男も女も女の格好をしていた。明治政府が狙ったのは全国民を武士階級にすること。ヨーロッパ(の上層)が下品と思うものを規制する意識改革。
ローマ人に「愛」の概念はない。財産がない人間に結婚する意義を与えるキリスト教の布教の結果。ローマは子供が出来ないと離婚できたが、キリスト教は離婚できない。