失敗

暗いことといっても、自分の性格のことではない。いや、確かに僕の性格は暗いのだけど、ここで話したいのはひどくねじくれた僕の精神についてではなく、机の上の照度についてのことだ。何故机の上が暗いのかというと、僕の体が照明の光を遮ってできる影がちょうど、本を置くのにびったりの机の端に位置しているからだ。体を90度傾けると、影で本が見えなくなってしまうということはないけれど、本を持ったままの読書、それも数時間ともなると、腕の筋肉や首の筋肉に負担をかけてしまう。首イタイよ。前々から気になっていたこの環境、この一年をだましだまし過ごしてきたのであるが、ついに我慢の限界がきた。嘘。今月は資金に余裕があるので、この際買ってしまおうという気になったのだ。
一番近くにいる家電量販店はスカというか、安物ばっかしだ。これは予想通りなので、有楽町のビックカメラに出る。Z-999(BK)が約一万円。2chのスレによればまず順当な代物だ。ところが、展示されているZ-999(BK)はバネがいかれていて、首がかくんとたれてしまっている。一万円の品じゃそんなもかもしれない。それでも品質に不安を覚えた僕は、せっかくここまで来たのだからと秋葉原まで足を伸ばすことにした。
ヨドバシ秋葉も例によってZ-999BKと、あと気になった品物として、PanasonicのLx-Naviが展示されていた。つまみを回すことで30〜100%まで明るさを調節できることがウリの機種だ。しかし、しかしである。例えば僕が読書しているときに50%の出力にしていたとする。このとき、50%の出力が正しい数値であるとどうやって判断すればよいのか。また、50%の数値が欲しいのであればアームを遠めに配置することで達成できる、つまり無駄な機能ではないかという疑惑がわく。値段も安いし、大人しくZ-999BKを買おうと僕は思った。ただしビックカメラで。なぜならヨドバシのポイントカードは持ってないから。
ついでだから、秋葉原の照明器具の品揃えについて概括しておこう。ソフマップの照明器具の品揃えは貧弱だ。机の上に置くタイプの商品はないといったほうがよいだろう。石丸電気ツインバードが主力だ。一方で、YAMAGIWAレーベルの高い品物があったりもする。今回は予算一万円のため見送ったけど。そのヤマギワリビナ館は……うん、値段が違うよね。下々のお店じゃないよあそこ。
さて、ビックカメラに戻った僕は意気揚々と地下一階の照明器具売り場に向かった。Z-999(BK)の札を一枚取って、レジの店員に手渡す。店員は在庫を探しにだろう、姿を消したので一時待つ。待つ。なかなか帰ってこない。一分、いや三分はたっただろう。生麺タイプ以外のカップラーメンなら食べ終わっている時間だ。おっと、これは言い過ぎた。ともかく通常より長く待たされた僕に対して店員はこういった。「Z-999(BK)はただいま在庫が切れています。Z-702なら今すぐご用意できますがいかがしましょうか。」Z-702ってなんだ。どうして数字が小さくなっているんだ廉価品ならいらないぞ。と口に出す無神経さがあるはずもなく、僕は「それはちょっと」とにごしてみた。「お取り寄せとなると、水曜日になりますね」と店員は調べてくれた。水曜か。三日後。ただし、気の迷いといっても間違いではない理由でデスクライトを欲しがっている僕は、いますぐの今日に欲しいのである。僕は男らしく、とはほど遠い口調で「じゃあ結構です」といって自分の家へと帰っていった。のであればまだしも男らしさに近いのだが、そのあと僕はもう一度ヨドバシ秋葉に戻った挙げ句、Lx-Naviを買うか買うまいか30分ほど悩み、結局ふんぎりがつかなくて、ネットショップで買った方が安いからと自分を誤魔化しながら何の収穫もなく今度こそ家に戻ったのである。